〇≠無の証明Ⅲ (ページ26)

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いてぇ、とか言いながら足の甲を押さえてる櫻井さんを無視しながら、立ち上がる。

「ごめんなさい、ロイの絵はないの？」
「それが……何故か一枚も残ってないんです」
「どうして？」
「わかりません……」

紫音くんが困った顔をした。

「じゃあいいわ、えっと……ん？」

車のエンジン音がした。

「誰？」
窓から覗いたら、黒塗りの高そうな車が停まった。
中から男が出てくる。

「あれは、誰？」
紫音くんが窓から下を覗く。

「おじさんだ」
「おじさん？」
「この前亡くなったおばあちゃんの妹の息子の」
「山埜タケオ？」
二宮さんが一緒に見下ろした。

「そうです、どうしよう、警察に相談したなんてバレたら怒られ……」
「じゃあね、君はバイトで一緒になった先輩の松本くんに相談したら、お友達の刑事さんを紹介してもらった、ってことにしたらいいよ」
「じゃあ俺は刑事じゃなくて紫音くんのバイト先の先輩ってことね？了解」
「モデルの先輩の適任者、松本くんぴったりでしょ」
二宮さんがいたずらっぽく笑う。

「そうだ紫音くんモデルじゃん！俺モデル？ええー！できるかなぁ！ええー！」
松本さんがしゃがみこんでうなだれながら、あはは！って笑ってる。

「じゃおれ友達ね、お前ら同僚」
二宮さんが澄まして言う。

「……」
「で、奴が居間に来るまでに確認。この家は誰の持ち物になってんの？」
櫻井さんが慌てて聞く。

「この家と土地いくつかは、紫音くんの血のつながらないじいさんのものになってた、紫音くんを守るのを条件に」
「なんで知ってんの」
「ばあちゃんが言ってたみたい。で、子も親戚もなかったじいさんの遺産、まぁつまり紫音くんの直系の血筋の遺産は全てばあさんのものになった」
「うん」
「ばあさんが遺書を残していなかったり、紫音くんを養子縁組にしていなかったら遺産は今から来るおっさんにも転がり込む」
「……遺書は」
「弁護士が持ってるはず。その弁護士は、紫音くんが成人するまで遺書は開けられないと言ってる！」
「なぜ！」
「またあとで」

「紫音くん？」
オッサンの猫なで声が聞こえて、ぞわっと気持ち悪くなった。
みんな同じことを思ったらしい。

「何か変わったことあった？」
居間に入ってきて、びっくりしたように私達の顔を見渡す。

「お邪魔してます」
櫻井さんが言った。

……盗聴器どうなったんだろう、バレたか？

はっきりとした心の声が聞こえて来た。
……こいつだ。