〇≠無の証明Ⅲ (ページ18)

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「スケープゴート……自分の身は潔白だってことを証明するために、あいつが怪しいってはけ口に使った可能性もあるよな」
「今でもあるよね、いじめが自分に向かないために他の子を攻撃したり見て見ぬ振りしたり」
「ああ、最悪」

櫻井さんが黙りこんだ。
長い沈黙のあと、ポツリという。

「いじめって言葉がよくないんだ、あれは犯罪」
「うん」
「犯罪を見て見ぬ振りしたり、それを助長したらそれはほう助」
「そうだね」
「いじめはよくない、って言い方が甘い、殴ったら暴行罪、カツアゲされたら恐喝罪、精神的に追い詰めたら傷害罪」
「……」
「いじめなんて生ぬるい言葉なんか使うからおかしいんだ。あれは犯罪。我慢できなくなる前に警察か弁護士に相談すべき事案」
「そうだね」
「胸糞悪い」

櫻井さんが黙り込んだ。
この人はいつから人の心が読めたんだろう。
もし、学生時代からだったならなんて生きづらい世の中だったんだろう。
自分の学生時代を思い出して薄ら寒くなる。

保身。
自分が一番可愛い。
自分さえよければいい。
自分が自分が自分が自分が！
それは当たり前の感情。わかってる。わかってるんだ、それも。

だけど、どうして人は、相手にも自分と同じように心があることを忘れるんだろう。

「……話がそれたけど、どうして魔女って扱いになったんだろうね」
櫻井さんがぽつりとつぶやいた。

「でも私、中世ヨーロッパにいたら絶対火あぶりにされてた」
「俺も」
「魔女、っていうけど男の場合もあった、って書いてるもんね」
「よかったー、現代の日本で！」
「でも、……火あぶりされないだけで……」
「だな、人より抜きん出たら、妬まれたり異常だといわれたり……学校は型にはまった人間を作るための製造業だもんな」
「辛口だね」
「個性は必要ないんなら全員にロボット装備させりゃいいじゃん」
「うん」
「教える側の人間の大半は勉強とか学校が好きだった奴の成れの果て」
「そうだね」
「そんなやつに落ちこぼれた奴の気持ちがわかるのか？わかるわけねーよ、だからつまんねー精神論とか押し付けてくるんだよ、教えられないから」
「……」
「相手の心を汲み取ってあげて、ただ寄り添うだけでいいのに」

もしかしたら、櫻井さんには助けられなかった人がいたのかもしれない。

人の心が聞こえてしまうというのは時に残酷だ。

信号が赤になって、ふと目が合った。

「お前は大丈夫？」
「櫻井さんこそ」

思わず、笑う。