〇≠無の証明Ⅲ (ページ17)

今日:38 hit、昨日:20 hit、合計:1,707,299 hit

タリスマン(2016/12/12) ページ17

特になんの成果もなく応接室を出て、二人で目を合わせてため息を吐く。

「呪いなんてない、って頭から決めつけてる人に救いを求めても意味はない」
櫻井さんがもしかしたら住職に聞こえるかも、くらいの大きさの声でそう言った。

「そうね」
「この世に超常現象なんてものはないという個人的な思想に関しては俺は何も言わない」
「うん」
「でもさ！霊も呪いも馬鹿にしてるのに、祈れば功徳はある、という感性は理解できない！」
「……」
「読経って死者を弔い、成仏を願うためだろ？霊魂に届かないんだろうなって思いながらやってるなら何のためにやってんの？金儲け？」
「いいすぎ……」
「俺は嫌いなんだよ！親切な顔して腹の底でうすぎたねえことばっか考えてるやつが！」
「……」
「神妙な顔しながらお前見て、可愛いお姉ちゃんだなみたいなこと考えてるクソ坊主め」
「だからいいすぎ」
「性根だけでなくてお前が可愛く見えるなんて目も悪い！」
「おいコラ」
ふふんって私を見下ろす目。

……可愛くはない、可愛げはない、綺麗、ならわかる。
って意志が伝わってきた。

「ありがとう、世間一般的に見たら櫻井さんもイケメンよ」
「わかってます……さてと、いったん帰ってあの手記を洗いなおそう」
「そうだね」

車に乗りこもうとしたら、後ろから一人のお坊さんが追いかけてきた。

「あの」
「はい」

あの爆裂な悪口が聞かれていたのかしら。
なんて思ったら、その若いお坊さんは、櫻井さんにそっと耳打ちした。

「これを持って行ってください」
「ん？」
「先代が、個人的に調べていたものだそうです、捨ててあったのを私が保管しておりました」

先代、というのはさっきの住職のお父さん？
手渡されたものは、古い新聞の切り抜きなんかをはっている、年季のあるノートだ。

「見つかるとまずいのでこれで」
「ありがとう、助かります」

櫻井さんが微笑んだ。
若い僧侶が微笑んで走って帰る。

「……捨ててあった、とか言ってたな、よほど超常現象が嫌いと見える」
「違うんじゃないかしら。きっと怖いのよ、呪いに関わるのが」
「なるほど」

車を発進させて、ノートをぱらりとめくってみた。

「……魔女狩り……」
「ん？書いてる？」
「魔女狩りのこと調べてる」
「魔女？……なあ、魔女狩りって集団いじめだろ？」
「……うん、誰かのリークではめられた人も多いって聞いたことある」

櫻井さんが頷いた。