悪魔の誓約[SS]番外篇２ (ページ22)

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10時少し前。
先生が勝手知ったる人の家、って感じで閉店後のお店の裏口から入ってきた。

「いらっしゃい」
松本さんが言った。
「どうもー」

「……」
ガン無視してる私をちらっと見て、カウンターに座る。

「で、うちの子はあの桃のきれいなケーキ食ったんですかね」
「先生の子じゃないもん」
小声で反論したのをちゃんと聞かれて睨まれた。

「食ったよ！」
智さんがニコニコしながら言った。
「明日は何？」
「明日はプリンケーキ」
「プリン！どんなんだろう、楽しみだな」

わくわくした顔で楽しそうにしてるのを見て、はあ、っとため息を吐いた。

「先生の計画ってなんですか」
思い切って松本さんの前で聞いてみた。

「あ、言っちゃった？どこまで言った？」
「何も言ってないよ」
松本さんがふふ、って笑う。

「いや、ここまでバレないってのがね、逆に何してんだって気持ちになるんだけど」
「だよね」
先生と松本さんが笑い合ってる。

「何がですか？」
「や、約束したら俺からは何も言わない」
「俺もそう」

先生が口をむーんってして、松本さんも電卓をカタカタ叩いてごまかしてる。

「どういうことですか？」
「で？片付け終わった？」
松本さんが私に聞いてきた。

「……明日の準備、何かありますか？」
「もういいよ、着替えておいで」
「はい」

先生がレジの横の棚にある８月のシフトをじっと見た。
着替えて店内に戻ったら、先生がガタン、と立ち上がる。
「お邪魔しました、いこっかA」
「嫌です」
「ああ、もう、ほら、どう思う？いっつもこんなんなんだけど……」
先生が疲れたみたいに、はあああ、ってため息を吐く。

「大変そうだな、翔さん」
松本さんが楽しそうに笑ってる。
「だろ？教えてくれよ、こいつをマインドコントロールする方法」
「無理じゃね？」

松本さんがウケケ、って笑った。
「でしょ、俺さ、今までいろんな奴と出会ってきたけど、こんな扱いづらい奴初めて」
「……え？」
「だから、洗脳！する方法知ってんなら教えてよ！こんなに言うこときかねー奴いねーよ！」
「……」
「なだめてもすかしても、優しくしても怒鳴っても、絶対自分の意志は曲げない頑固者！」

あれ？
あれれ？ちょっと待って？
私関矢くんに、洗脳されてるとか、あれ？

「いくぞ」
「うん」
「あー、いちいち疲れる……」
「先生」
「なんですか」
「これは全部、私の意志？」
「何言ってんの？意味わかんねー」

先生が私の頭をぱこん、と叩いた。