56(2016/08/12) ページ16
「ありがとう、お疲れさまでした」
車から降りようとしたら関矢くんが私の腕をぐっと掴んだ。
「なんか言ってよ」
「先生に電話しなきゃ、遅れると怒られちゃう」
「怒られるってなんだよ、Aの意志は？」
「……」
「先生に怒られる？嫌われる？付き合うのも別れるのも全部先生の意志、って感じに見えるよ？」
「……そんなことない」
「我が君の仰せのままにって？先生はね、Aの王様でもなけりゃ神や悪魔でもない！ちょっとわがままで横暴なオッサン！」
「先生に失礼な言い方やめて」
「罰でも当たる？」
「……」
「恋人なんだったら対等になるべきだろ？」
「私達ちゃんと対等だよ！」
「いや、Aは言いたいことの百分の一も言えてない、そんなふうにしか見えない」
どうしてここまで言われなきゃいけないの。
手を振り払って睨みつける。
「私達のことなんにもわかんないくせに！」
「客観的に見ないとわかんないことだってあるから言ってる！盲目になってるよ！」
「なってない」
「じゃあ聞くよ、先生はいつ結婚してもおかしくない年齢なんだけど、将来の話したことあんの？」
「……」
「Aの就職活動の相談に乗ってくれてる？Aの未来に責任を持ってくれた？」
「……それは」
「A、遊ばれてない？」
もう耐えられない。
「遊ばれてもいいのよ！次、飯島さんと付き合うまでのつなぎでもいい！」
「はぁ？」
「だから放っておいて！」
車から飛び出す。
先生に堕ちちゃったんだもん。
仕方ないじゃない。
一度でも先生のものになれて幸せだった、
そんな恋でもいいじゃない。
なんだか、悔しくて泣けてきた。
誰かに何かを言われても
もう止められないんだもの。
家に入って靴を脱ぐのももどかしくすぐに先生に電話をかけた。
コール3回ですぐに出る。
「もしもし」
「先生」
「ん？なんか声が……泣いてた？」
先生会いたい。
会って安心したい。
「今から会いに行っていいですか？」
「……あ、ごめん、今日は無理」
なんだか先生が歩いてるみたいな感じの声の揺れ方をした。
「……今、外ですか……？」
「うん、今、飯食いに来てて」
ズキン、と心臓が音を立てた。
「……だれ、と……」
「飯島と高杉」
やっぱり。
そんな気がしたんだ。
誘ってくれればいいのに。
「……そうですか、では切ります」
「お前もくる？」
「先生は酷い人ですね」
「……は？今何つった？」
先生が電話越しでもわかるような怖い声になった。
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作者名：よしの
| 作者ホームページ：
作成日時：2016年8月4日 6時
