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「人の命なんて、いつ終わるか誰もわかんない」
「うん」
「だからもういいよ、って言ってくれた。いつだっけ？Aが大学卒業するまえの正月？」
確か、数年前のお正月。
様子が変だったお父さんとおばさんを思い出した。
「けど、俺はヤだったの、お父さんに借金して、かーちゃん養ってもらって、それでAもほしいなんてね、都合よすぎでしょ」
まだ涙目の私をみて、おにいちゃんが、くふふ、って笑った。
「ね、お父さん。俺、今月誕生日でさ、ほしいものがあるんだけど」
「……なに？」
「Aさん。を、僕にください」
「……父の日に返してくれるならいいよ」
「え、うっそ」
おにいちゃんとお父さんが同時に吹きだした。
「でもおにいちゃん、彼女は？いたよね？別れたの？」
「……彼女……？相葉さんのことを彼女ってことにしたときのこと？」
「え？」
「一人暮らし始めて彼女来るって言ったときのことでしょ、大学決まるまで死ぬほど勉強してたのに彼女なんて作る暇ないでしょうが！」
「でも見たよ！彼女と歩いてるの！」
「彼女？大野さんとかと見間違えたんじゃないの？」
お父さんが、はあ？って怒りだした。
おにいちゃんが慌てる。
「勘違いだって！彼女なんかできるわけないでしょ！俺貯金かゲームしかしないのに！」
「でも見た！白いスカートでミントグリーンのカーデの女のひと」
おにいちゃんが、目線を上にあげて、思い出す顔をした。
「……緑の？総合病院の近く歩いてた？」
「……うん」
「それカオルさんだわ、ばーちゃんのお見舞いに行ったときかな？あの人基本車だけど歩いてたとしたら多分そのとき」
「……カオルさん……？」
……そういえば、グリーンと白が印象的で、ちゃんと顔まで見てない。
「Aに会わせろって言ってたな、そういや。会ってみる？」
「うん」
おにいちゃんが、ふふって笑った。
完全においてけぼりになってるお父さんとおばさんを見る。
「ごめんね」
おばさんが、謝った。
「何が？」
「私たちの勝手な都合で、あなたたちを無理矢理兄妹にしてごめんなさい……ずっと後悔してたの、ずっと」
「……」
「Aちゃんが、心から笑ってくれなくなった日から。ずっと」
「……お母さん」
ああ、今初めて。
おばさんを、心からお母さん、って呼べたよ。
また、うわあん、って、子供みたいに、泣けた。
体から、たくさんの毒が抜けていくような気がした。
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作者名：よしの
| 作者ホームページ：
作成日時：2016年5月31日 0時
