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おにいちゃんがめんどくさそうに、頭をぽりぽりかいて、リュックを背負いなおした。
そのまま玄関から出ていく。
「待って」
「早く帰らなきゃ、彼女待ってるから」
「……おにいちゃん」
「じゃあね」
「先輩！」
おにいちゃんが、ゆっくり振り返る。
「だから、何。手短にどうぞ」
「吉沢くんとは付き合ってない、付き合ったこともない」
「……」
疑いの目。
ああ、もう、信じてくれないんだね。
そっか。
もう、私の声は、届かないんだね。
「だって私、ずっと好きな人がいるから。誰とも付き合わない」
はは、って笑ってみた。
もういいや。
もう、いいや。
「もう、二度と誰も好きにならない」
「……はあ？」
「私、結婚しないから、孫はおにいちゃんが頑張ってね」
もう耐えられない。
胸が痛い。
春だというのに冷たい風が、通り抜けた。
隣のお家の枝垂れ梅がさわさわと、揺れた。
「……お前の言うことは信じない」
おにいちゃんがそう言った。
「私だっておにいちゃんのこと信じないよ、嘘つき」
「……」
「……責任取るって言ったのに。嘘つき」
おにいちゃんの琥珀色の目がキラキラって光る。
「腕の傷、どうなった？」
「もう綺麗に消えたよ、だから責任なんて取らなくて済むよ、よかったね」
「見せて」
「いや」
「いいから見せろって」
近寄ってきた。
慌てて逃げる。
門をがしゃんと閉めておにいちゃんを閉めだす。
「A」
「彼女待ってるんでしょ、早く帰りなよ！」
「ちょっと待ちなさい」
家に入る。慌てて階段を駆け上がって自分の部屋に飛び込んだ。
ドアを閉めようとしたらおにいちゃんが肩を入れてきて、閉められなかった。
「部屋に入らないで！」
「見せろってば」
ああ、まずい。
慌てて枕元にあったおにいちゃんの写真を隠した。
「……何隠した？」
「……」
睨んで威嚇してみても、おにいちゃんには何の効果もなくて。
左腕を掴まれて、手に持った写真を見られた。
「……」
そのまま左腕のニットをたくし上げられる。
「……いや」
「痕、のこってんじゃん……それに何、この写真……」
「……」
「嘘つきなのは、お前……」
おにいちゃんが、私を抱き寄せようとした。
思わず、突き飛ばす。
「いやあ」
ひいい、って変な泣き声が出た。
「早く彼女のとこに帰んなさいよ！」
「待って！」
おにいちゃんを追い出して、部屋を閉める。
胸が痛い。
痛くて痛くて、死んじゃうかも。
涙が、あとからあとから零れ落ちた。
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作者名：よしの
| 作者ホームページ：
作成日時：2016年5月31日 0時
