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「じゃあ俺の前で泣くなよ」
「泣いてません」
「泣いてるでしょ！タクシー追っかけようとして、バカ！」
バカといわれた。
「バカって言ってすみません」
謝られた。
「仕方ないでしょ、課長は……特別だもん」
櫻井くんが、ごくりとのどを鳴らした。
ちょっと緊張したみたいに、私を見る。
「…………課長とは、付き合ってるんですか？」
「……は？」
おっと。
勘違いしてる！
超勘違いしてる。
「つまんない質問しないでくれる？」
私なんでこんなすまして返事してんの？
んなわけないでしょおー！ぎゃはは！って笑いたいのに。
「それって……」
「櫻井くんだって彼女の２，３人いるんでしょ」
「彼女なんていません」
「あら？もてないの？もてそうなのに」
「俺のことはどうだっていいだろ」
「……」
「思い切って聞いたのにはぐらかすなんてなんだそれ」
うーん。
なんだこの展開。
「……」
「……」
なんか妙な沈黙が。
なんだこれ。
なんなんだこれ。
にやにやしたいのを抑えきれないんだけど、でも、にやにやできるような状況ではない、決して。
でも！だって！こういうのご無沙汰なんだもん！
櫻井くんのことは好きだよ、大好きだ。
大好き過ぎて身もだえするくらい好きだ。
多分今日家に帰ったあと、ベッドにダイブして枕だっこしながら、すーきーだー！！って叫ぶだろうな、ってくらい好きだ。
だけど、だからといって、どうにかなりたいわけではない。
……たぶん。
ちらり。
盗み見。
呼吸して動いてる胸とか。
ジャケットを脱いで腕まくりしてる、腕とか。
きれいな手、とか。
ああ、好きだなあ、って。
恐る恐る顔を見る。
ちょっと！神がかってるよ、イケメン過ぎる。
その、真剣な横顔とかがかっこいいよ、どうしよう。
何がどうしようなのかよくわかんないけど。
「なんですか」
こっちをちらりとも見ずに聞いてきた。
「ごめんね」
「謝るんだ……」
はあーとため息を吐かれた！
えっと謝るのはまずったか？
「さっき、迷惑かけて、……泣いちゃってごめんなさい」
「ああ、そっちの意味」
どんな意味にとられたんだろう。
どきどき。
くっそ、どきどきが止まらない。
「……」
「で？課長と付き合ってんの？」
「付き合ってるわけないでしょう」
「……」
櫻井くんが、はあ、って息を吐いた。
「課長が不倫してないってわかっただけでもちょっとホッとしました」
付き合ってるって思われてたんだ。うそでしょ。
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作者名：よしの
| 作者ホームページ：
作成日時：2016年3月29日 21時
