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取引先での挨拶と今後についての簡単な打ち合わせ中。
櫻井くんは雑用係としては完璧だった。
私が図面を広げようとしたらお茶を自分の前に移動させる。
壁や床の話になったらサンプルを出す。
その間不要な書類を自分の前に移動させる。
相手が何かを言ったら、頷く課長、返事する私、記録する櫻井くん、と言ったふうに、自分の役割を見つけるのが上手。
取引先の事務のおばさまに媚を売られることも大事な仕事の一つだわ。
好感度は高ければ高いほどいい。
大体の打ち合わせが終了して、お互いによろしくお願いします、と頭をペコペコして、やっと取引先をあとにした。
「お疲れ。よかったよ」
課長がひとこと、褒めた。
普段仕事のことでは褒めない人だもの！やった。
嬉しくて頬がゆるむ。
「櫻井くんもサポート、よかったよ」
「ああ、はい！ありがとうございます！勉強になりました！」
「さあ、帰ろう。櫻井くんは直帰する？」
「いえ、僕荷物を会社に置いてあって……」
「じゃあ戻ろう。Aは戻るよね」
「はい」
櫻井くんが、小首をかしげた。
小声で『A……？』って不思議そうにしてる。
課長は私の新人だったころの指導係だった。
そこからずっと厳しく、優しい時もあったけど基本厳しく育ててくれた人だ。
ずっとくっついて仕事を盗んで私もやっと一人である程度のことはできるようになったけど。
それでもまだ、困った時は課長、って頼ることにしてる。
ちなみに課長の奥さんは、会社の元美人受付嬢で、私にとっては先輩に当たる人。
あれだけ美人ならメシマズ嫁でも我慢できるだろう。
愚痴ってよりのろけを聞くのも悪くない。
帰りのタクシーに乗る前に、忘れる前に、って課長と櫻井くんにどら焼きを手渡したら、二人共、わー！って喜んだ。
いただきます！って二人同時に言って、同じように目を細めて、細めてる目までキラキラさせて、美味しそうに半分くらい一気に齧った。
課長はこの味この味、って満足そうにしてたけど、櫻井くんは『！』って弾かれたようにどら焼きを見つめる。
「うめぇ……！」
「でしょ？」
「一瞬カリッてなったのに中はふわふわだし、餡も甘すぎなくて最高にうまい」
ほっぺパンパンだよ？
またたく間に食べ終えて満足そう。
「美味しかった」
幸せそうな櫻井くんが可愛すぎて辛い。
なんだかルンルンしてる櫻井くん見て、疲れなんてすっ飛んだ。
私のエネルギー源だわ。
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作者名：よしの
| 作者ホームページ：
作成日時：2016年3月29日 21時
