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「……すみません」
「さっきの話だけどさ」
「さっきの？」
「うん。据え膳食わぬは、って話」
「もうやだ、恥ずかしい。すみません」
まっすぐな視線に耐え切れなくて、ぷいっと窓を外を見る。
「俺、わりーけど。好きな女じゃないといくら襲われても抵抗するぞ？」
「ですよね、すみません、そういう意味じゃなくてですね……」
「だから、俺も浮気は嫌いなんだって」
目が合った。
うん。松本さんはそんな人だと思ってた。
「気が合いますね」
「うん」
松本さんの手が、私の頭をまたぽん、と撫でた。
なんだろう、泣きたい。
どうして泣きたいのか分からないけど、多分。
好きで、好きで。泣けてくる。
「あは、なんで？涙が」
笑いながらカバンからハンカチを取り出して、鼻をすすってたら、松本さんの手が、私の髪をわしわし、って撫でて、私の頭をふっと抱き寄せた。
頭と頭が、こつん、とぶつかる。
「なんで泣くの」
囁くような、優しい声。
「……絶対、例え死んでも、絶対絶対言わないって決めてたこと、言ってもいい？」
「……なに？」
「……二番目でもいいから、松本さんの、側にいさせ……」
うう、って嗚咽が漏れた。
浮気する人は嫌い。
浮気させる女も嫌い。
許せない。
どうして人のものだと分かってる人に手を出すの。
どうして決まった相手が居るのに他の人に心を揺らすの。
それは好きだから。
好きって気持ちにコントロールが効かないってこと、私はわかってたのにわかってなかった。
ちがう、
コントロールが効く相手としか付き合ってこなかったんだ。
松本さんに対しては、最初からコントロール不能なくらい好きだったんだもの。
止められるはずなんかない。
「……俺も、絶対言わないって決めてたこと言ってもいい？」
「……はい」
「それを聞いて、拒絶できない理由がわかるまで……時間もらっていい……？」
ああ、なんて誠実な人なんだろう。
俺も好きだよ、なんていわれたら、絶対疑ってた。
出会ってすぐにどうして？って絶対疑った。
それは無理、って優しく断ることも出来たのに、断らなかったってことは。
ねえ、もしかしたら松本さんの中で、答えは見つかってるってことじゃないの？
「……私を好きになってください」
そう言ったら、松本さんが私の唇に、唇を近づけて、躊躇ってやめた。
松本さんに、浮気させようとしてる。
私は最低だ。
「……やべ」
松本さんが、小さな声で囁いた。
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作者名：よしの
| 作者ホームページ：
作成日時：2015年10月13日 10時
