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松本さんが立ち上がった私の腕を取った。
鈍い痛みを感じる。
「痛っ……」
「あ、ごめん……ここ、さっきの」
松本さんがそういって、慌てて手を離す。
「ん？」
お友達が、私の腕を見た。
「ここどうしたの？内出血」
「周防に……」
「周防サンに？」
もう一人のお友達が、私を見下ろして、言った。
「肩」
「え」
「見せて」
「……」
黙って肩にかけたショールをずらしたら、ああ、って呟いた。
「爪あと。引っかき傷。ちょうど肩の裏あたり」
「こんなとこにも？気付かなかった」
「こっちの反対はドレスが破れてる」
松本さんが私の肩をぽん、って叩いた。
「……」
黙って私を見下ろす３人に、お店の人が声をかけようか迷ってる。
席をご用意しました、とかそんなお話しなんだろう。
「もう二次会解散してるから大丈夫だけど、気をつけて帰りなね」
イケメン俳優の微笑みを間近でくらってしまった。
頭がくらくらする。
「帰ったら連絡しろよ？実家？」
松本さんが私に聞いてきた。
「はい」
「なんかあったらすぐ連絡するように。力になれるかもしれないし」
松本さんが微笑んだ。
でも連絡することは。
さすがに甘えられない。
「ありがとうございました」
頭を下げたら、松本さんとお友達二人がニコニコしながら手を振ってくれた。
思った通りの、気さくな人たち。
類は友を呼ぶっていうのかな、
人が好き、そんな感じがする。
家に帰って、背中を確認したら引っかき傷、腕には内出血。
腰もなんだか痛む。打撲かな。
どれも病院に行くほどではないけど。
一応写真を撮っておいた。
ドレスも畳んで仕舞う。
大きなため息が出た。
なんだか、疲れた。
手元にあった雑誌をめくって、松本さんがなんとも凛々しい表情で前を向いてる写真を見る。
この目が欲しい。
この視線の先に居たい。
見つめ合って大好きと伝えたい。
けど、彼が私を選ぶことはない。
幸せと絶望が交互に訪れる。
会えた、けどこれ以上好きになるわけにはいかない。
傷つくことが決まっている恋？
忘れることも決まっている恋？
始まる前に終わった。
所詮あなたは手の届かぬ人。
出会いたくなかった？
出会えてよかった？
……出会えてよかった。
大好きと言えた。
もうそれだけで充分だ。
普通なら、失恋することもできなかった恋なんだもの。
なぜかちょっと泣けた。
嬉しいからなのか悲しいからなのか、わからなかったけど。
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作者名：よしの
| 作者ホームページ：
作成日時：2015年10月13日 10時
