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「うん、アイツらが探してる！ちょっと待って」
「あ、じゃあ、帰ります」
「どうして？」
松本さんが不思議そうに私を見る。
「どうして、って。私なんかが一緒だと……」
「あのさ、謙虚なのと卑下するのは違うよ、私なんか、って言うのやめて」
松本さんが鋭い目でチラリ、と私を見た。
「ごめんなさい……」
「謝るんじゃなくて」
「……」
「俺がちょっと待って、って言ったんだから待てよ。嫌なら帰ります、って言え」
うわぁ、俺様が出た！
「嫌なわけないじゃないですか！」
「じゃあ、付き合ってよ、いいでしょ、たまには俺だって違う女と飲んでみたいしさ」
違う女。
ということは、いつもの女が居るわけで。
「こういう仕事してるとさ、普通のＯＬさん？と知りあう機会がないんだよなー」
「……」
「俺らのファンなんだとしたら、単純に色々聞いてみたい。今流行りの壁ドンについてとか」
勉強家！これは多分、情報や知識として一般人の感覚を吸収したいのか？
しかも壁ドンについて？
真面目な顔してるのが可笑しい！
「何でも聞いてください、と言っていいのか」
「でもちょっと待って、連絡する」
松本さんがスマホを操作しながら立ち上がった。
一緒に来た人は男だと思い込んでたけど女かもしれないんだ。
彼女？
彼女の存在は、いないわけがない、と仕方なく受け入れている。
むしろ、こんなに素敵なのにいない方が変というか。
いないならいないで何となく嬉しい私の心は多分醜い。
幸せになってほしい、と同じくらい強い気持ちで、私のこの想いを取り上げないで、と思ったりしてる。
彼女の存在を明白にされたら、強制終了させられたような気持ちになるのよ。
あなたが誰のものでもいい、それでも好き！って言うには、時間がかかるの。
やっぱり好きだぁ、あは。
彼女がいてもいいから好きでいさせて。
そんな風に泣きながら自分の心にケリをつけるのは、もうちょっと先がいい。
できるだけ長く、夢を見ていたい。
誰にもわかってもらえなくていいの。
不毛な恋をした私を馬鹿だと笑えばいいわ。
あなたを想うと強くなれる。
その心になんの偽りもない。
ただあなたが好きなだけ。
それだけの純粋な想いを、
キモいという人がいるのなら、
私はその人を可哀相だと言ってやる。
見返りがなくても大好きって思える人と出会ったことがないのね、って憐れみの目で見てあげるわよ。
好き、その気持ちだけで明日も頑張れる。
なんてお手軽な精神安定剤。
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作者名：よしの
| 作者ホームページ：
作成日時：2015年10月13日 10時
