97、辞めなくていい！ ページ27
ワタナベくんに、紹介されそうになったあの日の夜。
もうどうにでもなれ、って思った私が、オトナの和から貰った手紙を読んで、
中を見て、あまりの衝撃に言葉が出なくて、
暫くして、笑いがこみ上げて、どうしようもなくて、ベッドにダイブした。
ああ、そうだったんだ。
長年のこの苦しみはなんだったの。
でも、その苦しみがあったからこそ、私たちは乗り越えてこられたんだ。
きっと、そうだ。
住む世界は同じでも、見る世界は全然違う。
和は、結婚なんてとてもじゃないけど考えられない世界に住んでいて、
それでも結婚しようとしてくれるとしたら、それはもう強い意志以外、なにもない。
すべてを失う覚悟で結婚に踏み切らなきゃ、
彼は、無職になっちゃうかもしれないんだもの。
長いため息を吐きながら、何気なく裏側をみたら。
マンガの新刊のチラシ。
よく見たらゲラ刷り。
きっと、映画化決定したマンガの新刊かなにかのポスターとか、
マンガの帯になったりしてる、あれの中のひとつ？
天才外科医って言葉に反応してよく見たら、そこには天才外科医の、和の名前。
きっと、自分の名前の入った、出来立てほやほやのチラシのゲラ刷りを一枚貰って
便箋にしたんだ、と思ったら、
そのお茶目さに悶絶した。
いっぱい、涙が、出た。
和の、バカ。
10年後も変わらず愛してるって言った、私たちの気持ちは、
ホントにホントだったんだ、嘘つき。
そして、私は。
私からは、別れないって、誓った。
貰った手紙を、もう一度丁寧に畳んで、
引き出しの奥深くに、仕舞った。
結婚式の日まで。
もう、２度と広げることはない。
そして、
どれだけ苦しくても、
絶対、私からは、別れない。
和が
絶対見ないでね、と言った理由がわかった。
和は自分の性格をよくわかった上で、
未来は変えられないよってあんなに挑発したんだもの。
たまたま、電話がかかってきたらんちゃんに、ワタナベくんに求婚されてるってことを言ったら、驚くべき速さで、和まで届いた。
次の日。
いきなり、和が家に来た。
家族はみんな呆然として、とりあえず上がってと薦めたけど、和は玄関で深々と頭を下げた。
「Aさんを僕にください。こんな仕事がだめなんだったら役者辞めて、元俳優の肩書き使って営業マンとかになるからお願いします！」
なんつーお願いのしかたよ。
「辞めなくいい！今やってる大河どうなるんだ！」
お父さんが、叫んだ。
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作者名：よしの
| 作者ホームページ：
作成日時：2015年6月14日 8時
