３、ねこ ページ3
二人で会社についたら、大野さんが、ありがと、ってふわって笑って、ひょいって傘から出た。
傘からの出方が可笑しくて、ちょっと笑う。
「ん？」
「いえ、なんか、可愛い」
「ね、君」
「はい？」
「名前は？」
「柚木です」
「下の名前は？」
「A……」
「ん。じゃ、またね」
そう言って、ちょっと手をふっていなくなる。
なんだか、日だまりの中でひなたぼっこしてる三毛猫みたいな人だ。
傘持たない主義って言ってた。
へんなの。なんか、可笑しい。
櫻井さんが超晴れ男っていうのも。
なんだか、可笑しい。
でも、ちゃんと折りたたみ傘持ち歩いてるとか言ってた。
そういうのも、ちょっと可笑しくて。
大野さん、思ってたよりすごく話しやすくていい人だった。
ちょっと楽しい気持ちで事務所の暗証番号を押す。
「おはようございます」
「おはよう、あれ？ごきげんね？」
先輩がニコニコ笑って言う。
「そんなことないです！」
「雨嫌いなんでしょ？湿気で髪の毛広がるからー。猫っ毛も大変ね」
「ねこ？」
「雨の日嫌いなのって猫っ毛だからって前言ってたよね？」
先輩が、ん？って顔で首を傾げる。
「ああ！ちょっと、さっき雨宿りしてた三毛猫さんのこと思い出しました！」
「雨宿り？」
「雨宿りしてました。ふにゃーって言ってました！」
先輩がちょっと笑う。
「今日は顔色悪くないね、よかった」
気付いてるんだ、きっと。
雨の日は、否応無くゆうくんを思い出す。
好きだよって私を抱きしめる腕も、
優しくて低い声も、
……ずっと一緒にいようなって言ってくれたあの言葉も。
『人生の９割以上は傘いらない』
なぜか、大野さんの言葉が耳によみがえる。
ということは。
私は人生の１割、ゆうくんのことを想ってるってことになる。
それが多いのがか少ないのかは、わからないけど。
雨の日は、嫌い。
あのひとを奪った日。
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なるちゃん(プロフ) - かぁ〜〜 うまい！！ はたと膝を打つ展開が気持ちよ過ぎる！ 出てくる人がみんな誰かに優しくて泣けてきます。 (2018年2月27日 9時) (
レス) id: a1fe1fb9b8 (このIDを非表示/違反報告)
とも(プロフ) - よしのさんの作品は…愛が溢れていて拝見していてホッとしながら心が癒されます(o^O^o)処女作品からここまで…よしのさんの魅力にはまってちょっとでも時間を見つけてはよしのさんワールドに入り浸りの毎日です(笑) (2017年9月10日 9時) (レス) id: b4753fc97a (このIDを非表示/違反報告)
ウサウサ - 三毛猫はオスじゃなくてメスしかいないんですよ (2017年7月20日 22時) (レス) id: 6d9c777ab6 (このIDを非表示/違反報告)
あかね - よしのさんの作品すごく好きです。いろんな解釈があって、何度か読むことによって気づくことも多い。いろんな表情があって、この作品大好きでした。わたしの解釈は、ねこってもしや元彼なんじゃないの？とかなんですけど、それだけで泣きたくなりました。 (2016年11月29日 1時) (レス) id: 4230ec427c (このIDを非表示/違反報告)
彩花(プロフ) - よしのさんほんとにすごい...こんな世界観を書けるのはよしのさんだけだと改めて思いました。またお気に入りの作品が１個増えました。雰囲気のある作品で、ひとつひとつの情景が目に浮かぶようでした。いつもありがとうございます、！ (2016年7月5日 1時) (レス) id: 9fafcdfc5a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：よしの
| 作成日時：2014年5月19日 23時
