27.徒花 ページ30
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「ばっかじゃねぇの」
Aは震えていた。拳を握り締めいて、すると突然亜簾を布団の上に押し倒した。亜簾は流石に、大胆過ぎる行動に熱で火照っている顔がなお、紅潮してしまう。が、そんなことは露知らず、Aは亜簾の顔にぐっと詰め寄るとそれは小さな声で言った。
「そんなことしなくても、俺は…いつでも考えてるよ。…ぁ、亜簾様のこと…」
「っ」
亜簾から見えるのは真っ赤な耳と艶のある黒髪と少しの赤髪。言葉の最後になるにつれて小さくなる声に、亜簾はぎゅうぅぅ、と抱き締める。が、そこで終わってしまった。
「待て、離せ…亜簾様…」
「A」
「ぅっ、」
2人は至近距離にいるのだ。亜簾の少し掠れた低い声で本当の名前を呼ぶ声はAにとっていい殺し文句だ。熱っぽい視線が絡み合い、Aは動揺してしまう。いつからこんなことで心が揺れるようになった。
心は売らないと決めていたのに。唇が今にも触れそうになった瞬間、亜簾は熱い息を吐いてAに言った。
「A、ごめ…ん、 」
亜簾は苦しそうな声でそう言うと、眠りに落ちてしまった。Aは呆気に取られた顔でしばらく動けなかった。半殺し状態だ。餓死寸前で出された食事を食べるな、と言われたかのよう。心のどこか淡い期待を抱いてしまっていた。恥ずかしい。
ずっと胸が可笑しい。否定しないといけない。気付いてしまったら、もっと可笑しくなりそうだ。欲が溢れてしまう。弱くなってしまう。こんな情は知らない。初めてでも分かっている。駄目だ、またAに戻ってしまう。泣き虫の自分が。
Aは亜簾から離れて、布団を掛けてやった。
目の縁から、熱い雫が頬を伝って落ちる。そのとき、結紐がぷつり、と切れ髪がさらりと落ちる。
「亜簾様、アンタは変な唄を歌っていた男に似てるんだ」
_かごめかごめ籠の中の鳥は
_いついつ出やる、夜明けの番に
_鶴と亀が滑った、後ろの少年だあれ
「俺は亜簾様のこと慕ってるんだな」
ぼうっと、余韻に浸っていたのかもしれない。襖越しに声をかけられた。
「華永野、おりんすか」
百合音の声だった。涙をそっと拭いて、戸を開けると百合音の後ろに女が立っていた。百合音はAの目の腫れに気付いていたが、触れようとはしなかった。
「若旦那のお連れさんでありんす」
「嗚呼、入りなんし
「失礼します」
若葉に明らかな嫌悪を向けられる。Aは勿論一々そんなことにかまけない。
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Ria。(プロフ) - 初めて見たのですが、、ッ好きすぎます。尊すぎます。こんな尊い小説があってもよろしいのでしょうか。ええ、もちろんあってよろしいです。この素晴らしい小説に出会えて良かったです!! (2022年4月29日 18時) (レス) @page46 id: 6d33a476b4 (このIDを非表示/違反報告)
大手裏剣(プロフ) - 藤雲ルアリナさん» あああ!お喜ばれる小説を書けていたようでとても嬉しいです!やる気でますね……頑張りますね! (2020年4月8日 15時) (レス) id: fe109e5f3f (このIDを非表示/違反報告)
藤雲ルアリナ - 世界観、空気、文体、ストーリー、もう何もかも好みです!毎回更新楽しみにしてます! (2020年4月8日 0時) (レス) id: 3165ea2c89 (このIDを非表示/違反報告)
大手裏剣(プロフ) - 氷浦メグさん» ひえぇっありがとうございます泣 これからも暇潰しにでも覗きに来てください… (2020年3月13日 17時) (レス) id: 54569fedb3 (このIDを非表示/違反報告)
氷浦メグ(プロフ) - 初見です。尊いですありがとうございます! (2020年3月13日 13時) (レス) id: 3357bae399 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:愛之助 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/oh19years/
作成日時:2019年2月16日 22時