28.徒花 ページ31
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「必要なものはそこらにいる禿に言うか、俺に言ってくれ」
「はい」
Aと話すのは気に喰わないのだろう、不服そうに返事を返されたが、若葉は直ぐに腰を下ろし看病を始めた。Aは特にすることもないのだが、客から来た手紙の束を持って部屋を出た。
遊男のすることは遊女とほとんど変わらない。暇があれば、手紙の返事や身支度、風呂。思い思いに過ごす。ふらふらと歩いていると、背後から声をかけられた。
「おやおや花魁様ァ…、ずいぶん髪が乱れてやすねェ?」
やたらと距離が近い髪結いの男だ。江戸の男という雰囲気だだ漏れのこの口調はなんとも腹が立つ。だが、腕は立つ。
「いつもの事でありんしょう」
「いんや、違いまさァ…」
するりと首を男の腕が回り込み、Aの顎を柔らかく掴む。
「俺は遊女の髪結いもしてるんでさァ…花魁様の今日の髪の乱れは遊女と同じ。
どこの旦那に抱かれたんですかねィ」
Aは手を払い除けると振り返る。これだから、髪結いの男は嫌いなんだ。
「馬鹿なことを言うのはやめなんし。今日は結構。
お帰りしていいでござんす」
そそくさとその場から離れるAを暫く髪結いの男は見ていた。この男は遊女も遊男も見世との関係を使って好きなだけ身体を喰ってきた。興味の湧くものはすぐに手中に納めて遊んでいたが、Aは手に入らなかった。Aはそうして髪結いの男がいくつもの遊人を駄目にしてきたのを知っている。だからこそ手に入らない。だが、ここで転機なのだ。男の匂いが付いた髪が髪結いの男の独占欲を擽る。
「また来るでさァ」
手紙を客に送ったあとは、若い衆に粥を作ってもらおうかと頼もうとしたのだが、皆忙しなく働いている為気が引けたAは朝霧を呼んで自分で作ることにした。
「兄さん、その長い髪料理に入りんす」
「あ、あ…」
突然気が強くなったかのように注意されてしまい、Aは従うしかなかった。
危なっかしいAは朝霧に叱咤されながら、粥を作り上げた。
「兄さん、自分の気持ちに気付きんしたか」
「…朝霧、何を」
「兄さん否定ばかりはやめなんし。
粥を作ってる兄さんはいつもより優しい。
少しぐらい幸せを望んでも罰なんて当たりんせんよ」
朝霧はAの気持ちを理解していた。頂点に上り詰めるために数々の遊男達を見捨てたことも、感情も殺してきたことも分かっている。好いた者が出来たのに、どうしても受け入れられない気持ちも。
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Ria。(プロフ) - 初めて見たのですが、、ッ好きすぎます。尊すぎます。こんな尊い小説があってもよろしいのでしょうか。ええ、もちろんあってよろしいです。この素晴らしい小説に出会えて良かったです!! (2022年4月29日 18時) (レス) @page46 id: 6d33a476b4 (このIDを非表示/違反報告)
大手裏剣(プロフ) - 藤雲ルアリナさん» あああ!お喜ばれる小説を書けていたようでとても嬉しいです!やる気でますね……頑張りますね! (2020年4月8日 15時) (レス) id: fe109e5f3f (このIDを非表示/違反報告)
藤雲ルアリナ - 世界観、空気、文体、ストーリー、もう何もかも好みです!毎回更新楽しみにしてます! (2020年4月8日 0時) (レス) id: 3165ea2c89 (このIDを非表示/違反報告)
大手裏剣(プロフ) - 氷浦メグさん» ひえぇっありがとうございます泣 これからも暇潰しにでも覗きに来てください… (2020年3月13日 17時) (レス) id: 54569fedb3 (このIDを非表示/違反報告)
氷浦メグ(プロフ) - 初見です。尊いですありがとうございます! (2020年3月13日 13時) (レス) id: 3357bae399 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:愛之助 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/oh19years/
作成日時:2019年2月16日 22時