天使のいないところ (ページ7)

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あの後、術野の止血を確認しようとした時に佐伯教授が第3手術室にやって来た。

　術野を一瞥して一言「渡海が？」と尋ねられたので「はい」と返事をすると、教授は納得したように頷いて出て行った。
　項垂れたように椅子に座る横山先生には目もくれず―

麻酔科医「ICUに移動するよ」

バイタルが安定した患者さんが麻酔科医と花房さんに付き添われて、手術室を出て行く。

そのストレッチャーが見えなくなると同時に思わず、床に座り込んでしまった

『はぁ～、疲れた』

猫田「ふっお疲れさま」

ゆっくりとした後片付けをしながら猫田さんが労いの言葉を掛けてくれるけど、あんまり心はこもってない

『心の準備なしで心外の器械出しは厳しいですよ』

「なに言ってんのよ、心外チームの人間が」

相変わらず猫田さんの言葉がきつい

ガタッという椅子から立ち上がる音が聞えて、振り向くとさっきまで魂が抜けたように座っていた横山先生が手術室を出て行く所だった。

基部の破裂を見抜けず、患者を殺しかけた横山先生

『(横山先生・・・終わったな)』

あの取引を受けた以上、横山先生に選択肢はない。

彼が今からすべき事は辞表を書いて、退職金の1000万を渡海先生に渡すことだけ

患者を救えなければ、医師としての自分が死ぬだけ

医者の世界は、常に危険と取り合わせ、心外のオペなんて薄氷を踏んでいくようなものだ－

『お疲れさまでした』

夜勤の看護師に挨拶をして、ナースステーションを出て行く。

日勤終わりに1年目の指導していると予想以上に遅くなってしまった。

『もう21時じゃない・・・。』

まっすぐに病院を出ずに、向かった先は心外の医局室、その中にある「仮眠室」の前で立ち止まって呼吸を整える。

『(どうかもう寝てますように)』

願いを込めて扉を開けると、わたしの願いを打ち消すようにソファに座ってる渡海先生が見えた。

『(こういう時に限って起きてるんだもんなぁ)』

　渡海の座るソファに近づいていくと、ゆっくりと首に両腕を回して抱きしめる。

「A」

『・・・まだ起きてたの？』

「昼間に寝すぎた。お前はもう帰りか？」

『帰ろうと思ったんだけど・・・』