天使のいないところ (ページ6)

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渡海「電メス」

『はい』

渡海「人工血管用意して」

わたしから遮断鉗子を受け取った渡海先生に「邪魔」と言われ、猫田さんに誘導されるように椅子に座った横山先生

その姿を視界に入れないように必死に集中する

外科医によってここまで差が出るのかと驚く程のスピードで人工血管同士を縫い合わせていく渡海

『(これが外科医としての格の違い・・・)』

世良「(信じられないスピードが全然違う！)」

花房「(Aさん、すごい。渡海先生のあのスピードに完璧についていってる)」

渡海「はい再建完了。遮断解除！」

渡海が遮断鉗子を外すと止まっていた心臓が再び鼓動を始める。

『(さすが、横山先生のミスを完全にリカバーしてる)』

誰もがこれでオペは終わりだと安堵した。

渡海は心臓の左心室部分に右手をそっと添えた

渡海「うんじゃあこのままオンポンプオンビートによる僧房弁手術やるよ。

メガネ！」

『え？』

Dr「まさか佐伯式をするんですか？」

渡海「ドベーキー攝子、それとクーリー鉤」

突然の事に頭がついていかない。

『(いま佐伯式するって言ったの？)』

渡海「おい」

『！』

渡海「聞こえたろ？ボーっとすんな、早くしろ」

『っ、すみません』

急いでドベーキーとクーリー鉤を助手の先生方に渡す。

しかし、その助手たちでさえ驚いている。

腕は良いと思っていたが、まさかこのレベルにまで達していたなんて

Dr「出来るんですか？佐伯式」

渡海「知らん」

Dr「え？」

渡海「だが1000万だ。頑張らないとな？」

渡海の佐伯式宣言を聞いて、笑っているのは猫田だけだ。

まるで「やると思ったよね」という風に猫田が笑いかけてくるが

『(全然笑えない！こんな事が他の先生たちの耳にでも入ったら・・)』

渡海「さ、やるよ」

Aの気など知る由もない渡海はもう佐伯式に取り掛かっている

『(信じられない。せめて佐伯教授が来るのを待つべきよ)』

教授の立ち合いなしで佐伯式を行うのはまずい

必死に止めるように視線で渡海に訴えるが、渡海はAに不敵な笑みを返すだけで手を止めることはなかった。

渡海「メッツェン」

『はい』

渡海「ペアン」

『はい(本当に佐伯式をやりきった)』

渡海「はい 1000万

あと止血できるだろ？」

研修医に再び「邪魔」と退かせて、渡海は第3手術室を出て行った。