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今日も長い1日を終わった
私服に着替えて、脱いだスクラブをランドリーボックスに入れる
この瞬間が1番好き、命と向き合う重圧から解放される気がするから
「どこ行くんだよ?」
『仕事が終わったので帰るんですよ、渡海先生」
昨日と同じように電気の消えた待合室で声を掛けられる
「お前・・・帰れると思ってんのか?」
『だって仕事終わったしね?』
手首をつかまれて征司郎の隣に座らされる
なんか、これデジャブだな
『寝ないの?』
「お前、昨日の今日で自分が言った事も覚えてねえのかよ?」
『昨日?』
なにか言った?
「昨日はダメでも今日は良いんだろ?」
『あっ・・・』
思い出した、何か約束した気が・・・しなくもない
「思い出した?」
『・・・でも、今日はオペして疲れてるでしょ?』
「それはお前だけだ」
こうなったら、もう逃げられない
・・・逃げるつもりもないけど
『外科医は経験した修羅場で腕が決まる』
ゆっくりと征司郎の左肩に頭を預ける
「なんだ、それ」
『今日のオペ中に誰かがそう言ってたのを思い出したの
誰が言ってたかなんて覚えてないけど、
・・・久しぶりにもうダメかもって思った』
「嘘つけ」
『だって、モニター入ってるのに高階先生は来ないし、回収できないって分かっても教授も来ないし』
「いつもの事だろ」
『・・・』
ゆっくりと目を伏せて、あの時患者が死ななくて良かったと改めて安堵する
「・・・A」
『帰りたい』
小さく言ったわたしのお願いに、征司郎がため息をつくのが聞こえた
『帰ってもいつも1人だし』
「・・・」
『誰もいない部屋に1人ぼっちで』
「・・・」
『あ〜ぁ、一緒に住もうて言い出したのは誰だったっけ?』
「・・・」
『なのに病院がいいなんて』
「分かったよ」
わたしの小言に耐えられなくなったのか、征司郎が立ち上がる
『?』
「着替えてくるから待っとけ」
『ありがとう』
「A、覚えとけよ」
『帰ったら、先にごはん食べようね』
「はぁ」
『怒った?』
「別に」
ダルそうに医局に向かって歩き出す
こんな風に言いたい事を言っても、今までケンカになった事はない
『ケンカした事よね、わたしたち』
「俺は勝てないケンカはしない」
『ふふっ』
「なんだよ?」
『べつに?』
オペ室では負け知らずの征司郎が、私生活では負けを悟って勝負すらしない
今日1番の優越感に浸りながら征司郎が着替えて来るのを待った
第2話 fin
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作者名:water lily | 作成日時:2018年5月1日 0時