夜に恋う３ (ページ9)

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睨み付けてくる優とは対照的に、私は微笑みを浮かべた。

「…なら！倒す！！」

ダンッと床を蹴り付け私に向かって刀を振り翳す優に、ゆったりとした動作で腰の剣を抜くと、それをいなす。
激しい剣戟。
だが、はっきり言って優の剣術はそこまでのものじゃない。重さはあるが攻撃が単純で素直過ぎるのだ。

『はは。優。昔言わなかったかな？力任せの剣など、おままごとだって』

「うるせぇぇぇぇ！！」

『技術がなければ、そのスピードと力は宝の持ち腐れだよ』

甘い。
力に頼り過ぎて愚直な剣先に剣の先を当てがい、止める。
それに優は驚いたように赤と翡翠の瞳を見開いた。

『ほらね。止められてしまう』

「っく…！！」

『優。今なら見逃してあげるよ』

「っざけんな！！俺はグレンを助けるんだ！！」

『身の丈に合った願いならまだしも、それはいまの君には過ぎた願いだ』

ヒュンッと剣を振り翳す。
咄嗟に優は刀を前に出してそれを受け止めたが、威力を殺し切れず後ろに吹っ飛んでいく。

「優！！」

『ほらね、優。君は弱い。グレンを助けられるだけの力は、君にはない』

淡々と告げれば、優は悔しげに私を睨み上げる。

『だから、君は禁忌に手を染めるのかもしれないね』

「…あ？」

『君はいったい何者だったのかな？』

「…何言って…」

「鬼籍に入るまでの九つカウントを始めろ。鬼籍王」

と、第三者の声が響く。

「君月！？」

優の後ろに現れた、ピンク色の髪の青年。その頭上には棺が浮かんでいた。

《一、二、三、四ーーー》

何やらカウントしている。あれの特性はいったい何だろうか。

「おまえ来たのか！！一緒に吸血鬼どもを殺そうぜ！！」

「君月！！優は鬼に取り憑かれて我を失ってる！！連れて逃げてくれ！！」

「黙れっつってんだろグレン！！俺なら、俺の力ならおまえを救えるんだ！！」

なんて傲慢さ。強欲さ。人間らしいと言えばらしいのだけれど。

「行くぞ君月！！」

君月と呼ばれた彼は、ジッと優を見てから口を開く。

「…ああ、そうだな優。おまえがさっき言ったことは正しい。こんな苦しい世の中じゃ…家族に執着しないで生きる意味なんてない。でも、だからこそ…」

カウントは続く。

「俺も、ここでおまえを守る」

《九らえ》

棺から何やら黒いものが飛び出して優を咥えこんだ。

「お～？何あれ」

君月の足元が崩れ落ちる。
それを見つめながら彼に向かって、《優のことをよろしくね》と口パクで伝えた。