番外編-6 ページ21
でもまだ誤魔化そうと思えば誤魔化せたはずだった。そう出来なかったのは、俺の事を気遣うように見上げるAちゃんの問い掛けがちょうど俺の心のつっかえていた部分に優しく触れたから。気付いた時には俺の口が勝手に動いていて、ずっと一人で抱えていたものを吐き出していた。
「……私は何も言わないけどさ、慎太郎君はその、チアキに何も言わないつもりなの?」
前に酒の場で、うっかりきょもと樹相手に口を滑らせた時にも同じような事を聞かれたのを思い出した。その質問の答えはあの時も今も変わらない。
「言わないよ。彼奴等に気ぃ使われたくないし」
なんていうのは建前で、本当はただ負け戦をして惨めになりたくないだけかもしれない。きょもには言うだけで言えばすっきりするんじゃないかって言われたっけ。確かにそれも一理あるのかもしれないけど、どうしても俺はそういう気持ちにはなれなくて。
「……そっか」
Aちゃんはただ短くそう答えた。Aちゃんはチアキと仲が良いから、チアキのことも気にしてるのかもしれない。
「まあその内気持ちも落ち着くだろうし、墓まで持っていきますよ」
でも俺にチアキを困らせるつもりはないから安心して欲しい。半分自分に言い聞かせるようにそう言った俺をAちゃんが、やはりぎこちなく、けれど真っ直ぐに見上げる。
「私相手には隠さなくていいよ。もう知っちゃったし」
「え?」
その言葉の意味を最初は理解できなかった。
「慎太郎君はチアキのこと好きだったんだね」
だけど続くAちゃんの言葉に、俺の中で、何かが崩れた。心がぎゅっとなった。
「あー、……うん」
チアキが、好き。その通りだった。でもそれはチアキにとって、ジェシーにとって、……俺にとって、無い方がいい感情だと思っていた。無い方がいいと思っていて、だけど消せなくて。
「俺、あいつのこと好きなんだよね」
気付いた時には随分と情け無い声でそう呟いていた。別に同情して欲しかった訳じゃなくて、慰めて欲しかった訳じゃなくて。
「そっか」
ただ短く答えられた言葉に、少し苦しそうに真っ直ぐに向けられた眼差しに、無くなった方がいいと思っていた、チアキに対する俺の気持ちを、受け入れてもらった様な気がした。俺自身からも見放されていた俺の気持ちが、在ってもいいものなんだって。大袈裟かもしれないけど、救われた気がしたんだ。
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夕色(プロフ) - あずみさん» 長いのに一気読みありがとうございます……!コメント嬉しいです。今後も慎太郎の格好良い所書けるように頑張りますねー! (2月12日 20時) (レス) id: f0afa3630e (このIDを非表示/違反報告)
あずみ(プロフ) - 一気読みしてしまいました…!慎太郎くんかっこよくて最高です!笑 めっちゃきゅんきゅんドキドキしてます!!^^ これからも更新楽しみに応援させていただきますね!! (2月11日 23時) (レス) @page39 id: fffeedeac5 (このIDを非表示/違反報告)
夕色(プロフ) - ★mmiioo★さん» コメントありがとうございますー!樹先輩については書きたいような、ずっと本当の所は解らないままでいて欲しいような……って感じです! (11月30日 22時) (レス) id: f0afa3630e (このIDを非表示/違反報告)
★mmiioo★(プロフ) - 慎太郎サイドだ!主人公ちゃんを応援したいが、樹先輩も気になる。 (11月29日 6時) (レス) @page19 id: 9bdd0af86e (このIDを非表示/違反報告)
夕色(プロフ) - ★mmiioo★さん» なんかなかなか煮え切らない展開が続きますがきょも共々生温かい目で見守っていただけると嬉しいです。頑張れ慎太郎!って思いながら書いてます😌。 (11月23日 23時) (レス) id: f0afa3630e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:夕色 | 作成日時:2023年10月17日 12時