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「Aちゃん、分量こんなんでいいかな？」
『いいんじゃない？』
黒尾「もうすぐこっち焼けるぞ」
『ん』
春高の余韻も大分抜けてきた2月上旬、卒業に向けてのラストスパートの授業で調理実習を行っていた。
名前順の班分けで黒尾や同性の親友(に昇格した)と同じ班になり菓子作りに精を出す。
そして、私の恋人に昇格した夜久衛輔は、私たちより大分離れたテーブルで調理に取り組んでいる。
夜久「何それ、ハート？可愛いな！」
今日も可愛さ全開で困ってしまう。アンタが今話してる女子の顔見てみなさいよ、このやろう。
黒尾「よそ見すんじゃないよ」
『ゴメン』
「でも夜久くん、モテてるから心配なんだよね」
『満更でもなさそーだし』
黒尾「あー、そうか……そうかぁ？」
『お前もモテてんでしょうが。最近呼び出し増えてんの知ってるからね』
春高は全国区のテレビ、それに現地での応援も凄くて心強かった。当時は。
でもダメだ、それがダメだったのだ
夜久の良さがみんなにバレてしまって、春高が終わってからは可愛らしいフワフワ〜ってした女の子から沢山の贈り物をされていることを私は知っている。
その中身は、手づくりのお菓子が多いことも、知っている。
私と夜久が付き合っていることは特に公言していない、けれど、春高であんなことをしてしまって良識のある人達は線引きをしてくれて、程よい距離を保ってくれていた。
しかしながら、後輩や中継を少ししか見ていなかったようなミーハーな子たちからしたら黒尾ほどデカく…威圧感のない、全てにおいてちょうど良い夜久は良い相手なのだろう。
「それよりいいの？下級生の間ではAちゃん、黒尾と付き合ってることになってるよ？？？」
さらにどこから出てきたのかそんな噂が後輩女子から夜久へのアタックを加速させているのだ。
『こんな奴と付き合うの、私には無理だよ』
黒尾「コッチのセリフです〜」
『はぁ………』
何の嫌がらせなのか、今日の調理実習はクッキーとカップケーキ。バレンタインに合わせて、先生が気を利かせてくれたんだろうけど、今の私には結構ツラい授業だ。
『夜久、おひる……』
夜久「ごめん先食ってて！」
『ん』
ねえ夜久、これで何日目？
黒尾「あれ今日食わねえの？」
『お腹減ってないからいい』
黒尾「いつまでも意地張ってちゃダメよ〜」
『黙りな』
黒尾「へーへー」
気をつかってくれてる黒尾。申し訳ない気持ちがどんどん溢れてきて、夜久に告白をしている女の子と自分を比べて嫌なことを考える自分に自己嫌悪。
ホントもう、最悪だ。
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作者名：HAL | 作成日時：2024年3月16日 2時
