嫁はいないが、好きな人なら

弐拾伍 ページ27

自分の字で想いを綴る。
手紙なんて書いたことがあっただろうか。

……おそらく、無いだろう。

文通相手はいなかった。鋼鐵塚の元には担当の刀鍛冶を替えてくれとの手紙は届くが、こうした手紙をもらったのは初めてだった。

「……何を書いたらいいんだ」

Aのように、自分の近況を伝え、相手を案じながら
相手を不快にさせないように。

「A、様」

手紙の初めは名前から。様、なんて人に言ったことがないし、言ったら変な気分になるから言わない。
……しかし、手紙に書くとなんだか違う気がした。

「自分は元気だとか、書いたほうがいいのか」

書いていると、意外にも流れるように筆が進む。
伝えたいことがたくさんある、ということに鋼鐵塚は気付かずに書き続けた。




書き終わり、紙を見ると黒い模様がいくつもできていた。

「なっなんじゃこりゃ！！」

自分の手を見ると指先に炭がついていたようだ。
軽く拭うも取れない。

仕方なく鋼鐵塚はその手紙を鎹鴉に渡した。

「汚くて、……すまんな、A」

鎹鴉の飛び立つ姿を見て鋼鐵塚はそう呟いた。

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