【文スト】社長と迷いネコ その４【福沢】

花束のある部屋で二人は(２) ページ8

もやしを入れたのか、ジュワッと威勢の良い油の音がして。

それが落ち着いた後にやっと届いた返事は……

「国木田さんです」

野生の狼の勘、とでも言おうか。
予想通りのその名は、諭吉の心にストンと落ちてから……、

大爆発を起こした。

「どういうことだ！？ なぜレイヤに花など渡す！？ 国木田に何を言われた！？」

自分が髪飾りを差し出したように、レイヤの目の前に差し出されたのだろうか、この花束は。

そう思ったら、言いもしれない焦燥感が諭吉を襲う。
自分の一番弟子に対して、こんな感情を抱くことになろうとは……。

そうだ、あの時からだ。
諭吉の脳内はグルグルと回り出す。

あの時……、探偵社の飲み会の夜。
遅れて行ったバーで、扉を開けた諭吉を待っていた光景。

薄暗い店内の床、横たわるレイヤに、馬乗りになる国木田独歩…………、

……いや、いやいやいや、逆だ。
……国木田が倒れていて、レイヤが上だった。

記憶を修正し、

……いや、上か下かはどうでも良い！
……何故そんなに接近していたのかと！

そこが問題だ。
もちろん、その時すぐに理由は解明されたが。

それ以降、レイヤを目で追う諭吉の視界に、いつもいる。
……ような気がする。国木田独歩。

「諭吉さん、出番ですよー」

諭吉の脳内にブレーキをかける、レイヤのいつもの声がけに。
諭吉は「了解した」と、やはりいつも通りの返事をし。

身体は条件反射の様に、キッチンからテーブルへと、夕飯を運ぶ。

諭吉の足でたった三歩の距離だが、盆がないため、茶碗も、皿も、グラスも、箸も、両手に二人分だけ持って、行ったり来たりを繰り返す。

エプロンを外し、ふうっと息をついたレイヤが、必ず先にテーブルにつくのを待ってから。
諭吉もソファではなく、向かい合うように床に腰を下ろす。

役割分担も円滑に行われ、二人して「頂きます」と声を揃えれば。
いつも通りの、二人の夕飯。
自然に、いつの間にか、いつも通りになった、そんな風景。

しかし今夜、二人の食卓の真ん中には、いつもはない花束が。

レイヤは自作の野菜炒めを満足げに口に運ぶ。

この花の話の続きはどうした！？
私の質問に答えろ！
と、頭では思っても。
……口に出せない、諭吉。

ただ、野菜炒めを口に入れれば。

「……うまい」
そんな言葉が自然と出てきた。

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