花束のある部屋で二人は(1) ページ7
今日は金曜日。
仕事を終えた諭吉は、恋人の部屋に帰る。
しばらく前にもらった合鍵を使うのが気恥ずかしく、いつも通りレイヤにドアを開けてもらうと。
エプロンをつけたレイヤが、珍しく玄関で抱きついてきた。
少し驚いて、ひとまず髪を撫でてやる。
すると諭吉の胸に顔を寄せるレイヤの、「お帰りなさい」という小さな声が聞こえ……。
諭吉はドキリとした。
この部屋を訪れて、「お帰りなさい」と言われるのは、初めてで。
いつもは、「お疲れ様です」とか、「いらっしゃい」とか、「待ってました」とか、「もー遅いですよー!」だとか。
そんな様な事を言われていたはずだ。
だから諭吉も、いつも「ああ」とか、「うん」とか、「待たせたな」とか、「すまん」だとか……。
そういう類の言葉を返していたのだが。
今日、初めて「お帰りなさい」と言われ。
初めての返事をした。
「ただいま」と。
胸が熱くなる。
しかし抱きしめようとする前に、レイヤは嬉しそうに微笑んで、もうクルッと踵を返し、キッチンへ戻って行くので。
諭吉も後に続く。
「入れておくぞ」
少し身を屈め、一人暮らし用の小さな冷蔵庫を開ける。
菜箸でフライパンをかき混ぜるレイヤが、顔だけこちらに向け、好奇心を露わにした。
諭吉は冷蔵庫にしまう前に、買い物袋の口を広げて、中を覗かせてやる。
「やったー!」
来る途中、適当に見繕って買って来たカップデザートを見て、野菜を炒める音に、レイヤの歓声が重なった。
フライパンの横には、これから投入するであろう、もやしの山が。
「今日はまた、随分と豪華だな」
と諭吉が笑えば、レイヤも「ん?」と少し考えてから、
「でしょ?」
と笑う。
……幸せだとか、愛だとか。
形を持たず、目に見えず、触れられもしないけれど……。
今ここに、確かにある。
「もうすぐ出来ますから、待っててください。出来たら、お皿運んでくださいね」
「ああ、わかった。有難う」
……幸せだ。
と思いながらソファに座り、すぐに目にとまった。
テーブルの上に飾られた、花が。
幸せに満たされている諭吉の心が、ザワザワと、揺れた。
「レイヤ、……これは、どうした?」
「んー? 何ですか?」
キッチンから、声だけが返ってくる。
「この……、花だ」
「……ああ、それ……。もらったんですよー……」
そう言われれば、聞かずにはいられない。
「…………誰に、もらったのだ?」
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カナコ(プロフ) - はるこいさん» 感想ありがとうございます!作者冥利に尽きます、幸せです!キュンキュン大事ですよね☆一気にお読み頂いた後は、社長の腕の中ですぐに寝て下さい!くれぐれも、寝不足で体調崩したりしないよう、お気をつけ下さいね!今後もよろしくお願いします! (2017年3月29日 14時) (レス) id: 5accc3d174 (このIDを非表示/違反報告)
はるこい - はじめまして!社長との恋愛…凄くキュンキュンですね!!言葉の運びが上手で読んでて全く飽きないので睡眠時間も削って一気読みしちゃいました♪これからも更新楽しみにしています! (2017年3月29日 12時) (レス) id: 531fa6c09a (このIDを非表示/違反報告)
カナコ(プロフ) - りりさん» ありがとうございます!嬉しい!興奮して飛んだり跳ねたり走ったりしちゃいます!イッキ読みでお疲れではないですか?ぜひ優しくソフトにゆっくりと、社長にいたわってもらってくださいね(≧∀≦) 社長愛たっぷりで更新して行くので、これからもよろしくお願いします! (2017年3月26日 16時) (レス) id: 5accc3d174 (このIDを非表示/違反報告)
りり(プロフ) - 今日、1から読みました!占ツク内で数少ない社長の小説なので、楽しみながら読みはじめました!読み始めたら最後、ハマってしまい結局全話読んでしまいました(^^)次の更新を楽しみにしてます! (2017年3月26日 13時) (レス) id: bb6c68ea55 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:カナコ | 作成日時:2017年3月18日 11時