【文スト】社長と迷いネコ その４【福沢】

よせがき ページ28

レイヤはマスターから一升瓶を受け取ると、重たいそれを両手でしっかりと持って、諭吉のグラスに慎重に注いでやる。
そこで、気づいた。

「諭吉さん！ これ見て下さい！」
「ん？」

一升瓶をぐるりと回し、ラベルの貼られていない裏側を向けると……。

そこには、白いペンで綴られた、個性的な文字が。
瓶のわん曲に負けじと、踊っていた。




『おめでとうございます！ 僕も仕事頑張ります。中島敦』

『たまには仕事をサボって、医務室で昼寝でもしてみるものですね。太宰治』

『拝啓、時下益々ご清祥の段、御慶び申し上げます。この度は我等が武装探偵社の暑気払い開催に際し誠に……、スペースがなくなるのでやめろと言われたので、省略します。今後とも御指導御鞭撻の程、宜しく御願い致します。国木田独歩』

『泣かすんじゃないよ！ 与謝野晶子』

『おめでとうございます。微力ながら、細雪の必要な時が有りましたらご協力します。あ、でも、そんなこと無いですよね、すみません、何でもないです、すみません。谷崎潤一郎』

『ダブルデート、楽しみにしていますわ！ 谷崎ナオミ』

『私もレイヤが大好き。泉鏡花』

『都会ってすごい！ でも社長はもっとスゴイです！ 宮沢賢治』





「うわー！ これ、みんなからの寄せ書きですね！ この一升瓶、捨てられないですね！」
「…………………………。ああ、そうだな」

若干、釈然としない顔で。
しかし諭吉は再びグラスを空にして、レイヤに次の一杯を要求する。

「グラスで飲むと一升瓶も減りが早いですね」と、ぼやきながら酌をしようとしたレイヤが、またも気づいた。

「これ……、瓶の底にも、何か…………、書いてあるみたい……」

横顔に、ほんのひとかけら→←まずは一杯

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す