【文スト】社長と迷いネコ その４【福沢】

福沢諭吉 VS 福沢諭吉 IN 福沢諭吉(３) ページ19

いつかのように、起こさぬよう抱きかかえ、ベッドに運んでやる。

横たえた恋人の体にタオルケットを掛けて。
寝顔を見れば……。

……ああ……！
……ああ、なぜだ、レイヤ！！
……今すぐ目を開けろ！！！

簡単には収まらない諭吉の熱が、再び上昇しようとするので……。
眉間にしわを寄せ、「ぐうっ……」と唸った。

……いかん、気を散らせ。
……何か、別の事を考えるのだ……

諭吉はいったんレイヤに背を向け、あぐらをかいて床に座り。
小さな寝息を背後に感じながら、考えた。

屋上は暑かったろうな、と。
実にすまないことをした、と。

いや、だがそれも今日まで。
皆の前で交際を正式に打ち明ければ良いのだ。

例え、すでに周知の事実になっていたとしても、それとこれとは話が別だ。

男として、レイヤの恋人として、襟を正して臨むとしよう。
誰一人、文句の付けようもない交際宣言をしてやる。

そう思ったら……、居ても立っても居られない。
今すぐに、社員全員を呼び出して、打ち明けたい気持ちにすらなる。

そう、今すぐに……。

……うむ、緊急召集でもかけるか。

緊急召集。
武装探偵社の社長権限であり、第一級の非常事態を意味する、最優先の召集コールだ。

召集を受けた社員は、全員十五分以内に社長の元に集まる。
命をかける覚悟をも済ませた瞳を持って。

そうして集まった、いつも以上に緊迫した面持ちのメンバーを前に、告げてやる。

レイヤは私の恋人だ！
何人たりとも、髪の毛一本触れる事も許さん！
もしもレイヤに手を出してみろ……、完膚無きまでに捻り潰してくれるわ！！

『はっはっはっは！ 緊急召集で告げる内容か！？ 鳩が豆鉄砲を食ったようになるだろうな、お前の部下たちは。周りが見えていないにも程がある』

む、そうか。それもそうだな。

『単細胞な男と付き合うと、レイヤも苦労する』

……いや。
レイヤは、そんなことすら分かっていたのかもしれんな。

『何をだ？ お前の阿呆加減をか？』

思い出した。
あの春の公園で……、出会った時に、言われたな。

好きになってしまうと、周りが見えなくなるタイプだ、と。

初対面の、名も知らぬ、だいぶ年下の小娘に……。
そんな風に言われ、参ったけれど……。
不思議と、嫌な感じはしなかった。

それは、たぶん……。

もうその時に、惹かれていたり。
もうその言葉に、愛がこもっていたりしたのかもしれない。

『……おめでたい話だな』

ああ、まったくだ。

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