【文スト】社長と迷いネコ その４【福沢】

国木田のオフェンス(２) ページ2

それは手帳のページから、国木田によって生み出された、小さな花束。

「受け取れ」
「……え」
「本来、異能力をこういった用途に使うことは主義に反するが……。お前が探偵社で、今後も今まで通り、……いや、それ以上の仕事をこなすという覚悟があるなら、……受け取れ」

そう言われ。
国木田の真っ直ぐな視線を受けながら、レイヤはゆっくりと、花束を受け取った。

「……国木田さん」
「何だ？」
「私の大事な探偵社の中に、……国木田さんも、いますから」

国木田がハッとして……、それから、顔を背ける。
その意味は、レイヤには分からなかったけれど。

「私、国木田さんに評価してもらえるような仕事をします。それが、私の目標です！」

「……そうか。ではいい機会だ。今まで言えなかったこと、……言わせてもらうぞ」
「……え？」

再びレイヤに向けられた国木田の顔は。
理想を掲げ、社の面々を統率しようと奮闘する、いつも通りの、整った顔。

「まず、仕事帰りに、そんな靴で街中を走るのをやめろ。商店街から目撃情報が多数寄せられている。見ていて危なっかしい、ヒヤヒヤする、猫っぽい、と」
「え！？」

「次に、ストッキングの替えは、常に持ち歩け。社会人の常識だろう」
「うっ……」

「それから、お前の作る書類だが、……そうだな、概ね十六部に一部の確率で、半角スペースが空いている箇所がある。段落がズレて、読んでいて実に不快だ。今後はそのようなことがないように、気を引きしめろ！」
「は、はい……」

面と向かって言われると、恥ずかしく、落ち込む内容ばかりで。
うつむいて花束を見つめるレイヤに、しかし国木田は容赦なく、

「前を向け、終わってないぞ」
「はっ、はい！ ……あとは何でしょうか」
「これで最後だ」

顔を上げたレイヤに、国木田が放った。

「社長のこと、よろしく頼むぞ」

「…………え？」
「どうなんだ？ その覚悟も、もちろん出来ているんだろうな？」
「……は、はい！ もちろんです！ 出来てます！」
「……ならいい。さっさと仕事に戻れ」

そう言って、自分から先にエレベーターへ歩き出す国木田。
レイヤもその背を追い、

「国木田さん、すみませんでした。私のせいで、無駄な時間を使わせてしまって。国木田さんの理想の予定、台無しですよね？」
「……本気で言ってるか？」
「え？」

「俺の理想を舐めるなよ。すべて理想通りだ」

絶不調だって、飛び越えてみせる、と。

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