おうちゆきち【文スト・社長】

(５) ページ49

結局。

「やっぱりチュロスかな」という独り言を聞いて以降、諭吉が巡らせた考えは。
勘違いも甚だしいということが、判明した。

レイヤが、諭吉の早合点を、少し笑って受け取って。
それから教えてくれたのだ。

チュロスとは、映画館で食べる菓子の名前であり。
ポップコーンをあきらめた末の、寂しさも含んだ発言であったと。

そして、手の甲にキスを繰り返され、頬を染めながら、
「すごいビックリな勘違いだけど……、私、諭吉さんのそういうとこ……、結構好き」と。

「でも、諭吉さん……、朝からキスしてくれてたのに、どうしてキスが足りないなんて思ったの？」
「あれは……、朝からの四度のキスは、あくまで言葉掛けの一部。いわば息をするのと同じ感覚だ。取り立てて『キスをした』という事実には至らん」

「……そんな、息するみたいにキスする諭吉さんといれば……、これからもずっと、私が『チュロス』になることはないですね」

嬉しそうに、幸せそうに微笑むレイヤを見つめれば……、
もう、レイヤを抱かずにはいられない。

おそらくはレイヤも、同じ気持ちでいるはずだ。

……いや。

そうやって、一人で判断することは、早合点の元。
やはり、聞かねば。

「レイヤ、映画が見たいか？」
「え？」

「映画を見に行くのならば、しかるべき用意をし、出掛けよう。レイヤが、映画を見に行きたいと言うのならば」
「……諭吉さんは、どうしたいの？」

思いがけず、聞き返されたけれど。
諭吉は腕を伸ばして、下からレイヤを包み込むように抱きしめて。
素直な思いを口にする。

「私は、レイヤと、こうしていたい。もう少し、この部屋で……、二人でいたい」
「もう充分、一緒にいるのに？ 昨日の夜からずっと、二人きりなのに？」

「……もっと、もっと二人でいたい。もっと、キスがしたい。もっと、ずっと……、レイヤを抱いていたい」
「それって……、諭吉さんが『レイヤロス』みたい」
「ああ、そうだ、その通りだ。……足りていない。レイヤが……、欲しい」

答えるように、レイヤからも腕が回されて。
諭吉の背中が撫でられて。

「じゃあ、映画は、また今度ね」
「レイヤ……」

「でもね……、映画が終わった後、買い物したいと思ってて。どちらかというと、映画よりも、映画館の入ってるショッピングモールで買い物する方が、大事で……」
「？」
「私ね……、新しい旅行鞄を買いたいの」

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