おうちゆきち【文スト・社長】

(１３) ページ39

『万能ではないのだ』
『人も、異能も、この世の理には遠く及ばん』

先程、諭吉も言っていた。

異能は万能ではない。
むしろ、様々な制約の中でしか発動しない。

……けれど。

『確実に通ることができるのは、命あるもののみ』

それは、逆に言うならば。
「命あるものは、確実に通ることができる」ということだ。

この家と、その周囲に張り巡らされた通路は。
これまで幾度となく、救ってきたのではないだろうか。
……命あるものを。

家主の福沢諭吉と。
時に、その片腕となって推理を働かせた名探偵の。
その生き様と、同じように。





「そっか……。手紙、一時間かかってたんですね……」

諭吉の説明により、おおかたの事情は把握できたレイヤは。
あくまで「ナゾが解けた」という気分でうなずく。

発生した時差の、その一時間は。
諭吉の、
『以前、高級な茶葉をもらったことを思い出してな。確か、ここにしまって……』という台詞から始まり。

レイヤが『普通のお茶でいいです』と言えども。
『駄目だ、今日は高級な茶を淹れると決めたのだ』と頑固に言い返されて。

ついに見つけ出した瞬間の、
『……ああ、これだ。今日はこれを淹れてやる』という、諭吉の冷静を装った声で終わったのだ。

一時間もかけ、レイヤのために高級な茶葉を探し出した諭吉に。
さらに、
『特別だ。レイヤだけに、特別に飲ませてやる。待っていろ』などと言われたならば……。

当然、レイヤは……、

諭吉しか見えなくなる。
諭吉しか聞こえなくなる。

……キスをして欲しくなる。

そして、乱歩が来たことにも気づかずに。
キスを……、
「ちゅっ」と、してしまったのだ。

訪れた乱歩は、ダンゴを頬張りながらも、思ったに違いない。
「手紙で僕を呼んでおきながら、僕が来たことに気づかないでキス？」、と。

結果として、それが。
名探偵の推理のきっかけとなり。
『お菓子ポスト』の『不明』を、いくらかでも解明することにつながった。

そう、ナゾは解けたのだ。
解けたのだけれど……。

もう少しマシな解決方法はなかったのだろうか、と。
思わなくもない、レイヤだった。

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