おうちゆきち【文スト・社長】

(５) ページ31

ここまでは、江戸川乱歩の推理通り。
そしてもちろん、ここから後の展開も……。

あまりの衝撃に、とっさに動けずにいる侵入者に。
諭吉の、手加減された一撃が決まる。

「二度目はない。去れ」と。
身の毛もよだつ声色の、諭吉の宣告に。

侵入者は恐怖に顔を引きつらせ。
一目散に逃げ出す。

寝室を血で汚すことなく。
家を破損することもなく。
当然、江戸川乱歩に傷一つ付かず。
撃退完了だ。

侵入者は、「あと一歩で暗殺完了」というギリギリの所で、予想だにしない妨害にあい。
体以上に、精神に大きな負荷が加わって。
再犯率は格段に低くなることだろう。

もう決して、江戸川乱歩を狙おうなどとは、思うまい。

なにせ……、
十代の少年の寝込みを狙ったというのに。
出て来たのは、恐ろしい人相をした大柄な中年男だったのだから。

その心中を察したならば…………

「……おい、乱歩。いつまで笑っている！」

名を呼ばれ、押入れから出た乱歩だが。
侵入者の身に降りかかった不憫な出来事に、笑いが止まらない。

「笑う奴があるか！ 命を狙われたのだぞ！？」

そうは言われても。
この男が、歳も体型も遠く離れている自分に扮して、布団の中に丸まっていたのだと思えば。
これまた、おかしくて。

笑い声は、床を転げ回る勢いだ。

「しかし……、こう立て続けに侵入されるようでは、らちが明かんな」

乱歩の笑いを止めることを諦めた諭吉が。
恐ろしい人相を、苛立たしげに歪めたままで。

言った。

「乱歩、俺の家に来い」









『乱歩、俺の家に来い』

そう言われてから、早幾年。

一人きりの家で、思い出した過去は。
『過去』でしかないけれど。

時を経てなお、乱歩の笑いを誘うのだ。

屋上に吹く風に似た、心地よい笑いを。

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