おうちゆきち【文スト・社長】

しばるゆきち(１) ページ12

夜中に、目が覚めた。

暗い部屋の中。
隣には、諭吉。

闇の中で、銀の髪が淡く光る。

ゆっくりと息をする、柔らかな寝顔。

その腕は、レイヤの頭の下に。
枕代わりに伸びている。

信じられない。
夢のようだ。

大好きで、大好きで、大好きな人が……。
こうして、夜のレイヤ部屋で、寝息を立てているのだから。




思えば今日は、まさに夢のような一日だった。

武装探偵社での昼休み。
社長室の扉を開けたレイヤを待っていたのは。

……スーツ姿の福沢諭吉。

いつもの着物姿とは、また別の、妖艶な魅力に満ちて。
思わずドキリとしてしまい。

見事にそれを、見透かされ。
……言われたのだ。

『今宵、レイヤを抱きに行く』と。



福沢諭吉は、有言実行。

その夜に、レイヤのアパートに飛び込んで来るなり。
「おかえりなさい」を言おうと、開きかけたレイヤの口を塞ぎ。

レイヤの息を止める。

唇が離れて、やっと諭吉を見上げれば。

獲物を狙う狼のような、荒ぶる瞳で。
首のネクタイを、グッと引っ張り、ゆるめる。
……「ただいま」も言わずに。

ネクタイを外した、その首に、汗が一筋。

この男は、本当に、月夜を駆けて来た。
狼のように、駆けて来たのだ。

レイヤを、抱くためだけに。




そんな、夢のような一日の、とっておきの「おまけ」が。
今、レイヤの横で、眠りに落ちたままの諭吉。

着物も、スーツも、この世で一番、似合うけれど。
……今は、何も身につけず。

産まれたままの姿で、布団に包まり、横たわっているのだ。
レイヤの、隣で。

ずっと見つめていたい、諭吉の寝顔。

しかしレイヤは、ふと気づき。
そろりと身を起こす。

ベッドの下に、視線を向ければ。

……思った通り。

諭吉が乱暴に脱ぎ捨てたスーツが、脱いだそのままの形で。
……つまり、グシャグシャのまま。
床に放ってあった。

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