妖破流転【小説】 (ページ4)

今日:2 hit、昨日:1 hit、合計:4,880 hit

第3話【越天軍】ページ4

「…でさ、皆で酒飲んだ後に相撲を取ったんだ。そしたら店から苦情が来てさ」

ぱら、と本の一枚ページをめくる。

何度も読み込んでいるのですらすらと内容が頭に入ってくるものの、これが初めて読む本なら、目の前の煩い蝿のせいで頭に入らず、諦めてその場で大の字になったかも知れない。

「『それなら相撲が取れなければ文句あるまい』って、畳全部ひっくり返してやったんだ。酔った勢いでやったけど、今考えるとやり過ぎだったかなぁ」

「…おい」

流石に耐え兼ね、活字から目の前の男に視線を移して言う。
睨み付けてやったつもりなのだが、純朴で田舎っぽい雰囲気を纏う彼は無効化だったらしい。
頭に「？」と疑問符が浮かんでいる。

「本を読んでいるのがわからんか。…というか、それ以前に。何で貴様がここに居るんだ？」

「一人が寂しかったから」

素直に理由を述べ、しゅん、となる。
もっと怒ってやろうと思っていたのだが、くっ、と言葉が詰まり、それ以上出てこない。

此奴、毎回思うが本当に20代か。
いや、人間じゃなくて犬か何かじゃないか？
…となると戦闘中だけ狂犬だな。
我ながら良い例えだと思った。

はぁ、そうかと相槌して、本に視線を戻した瞬間だった。突然部屋のスピーカーから流れ出した臨時招集の音が鳴った。

暫くして、聞きなれた声が響く。

『妖の大規模襲来についての予言を行ないまーす』

それだけを言うと、ぷつっと音は途切れた。

両者は固まったが、すぐに顔を見合わせて言った。

「出たらしいね」
「ああ、出たらしいな」

にたり、と口端が歪む。
不謹慎だが、自然と上がってしまうのだ。

それからは何も言葉を発さない。
越天軍二人は、口角を上げたまますっと立ち上がり、別棟に向かった。