人間洗浄機２

日常75　興奮です ページ43

「…良かった。」

「…やばかった。」

映画のエンディング曲が流れる劇場内。
少女と二郎は尊さのあまり放心状態に陥っていた。

「やばかった。」

「それな。本当、あぁ、語彙力カムバック。」

どうやら二人は語彙力が無くなる系ヲタクであるらしい。
先ほどから、
「やばかった。」「それな。」
で会話が成立している。
彼らの仲ならもはや言葉はいらないのだろう。

二人はようやく席を立ち、出口に向かう。
映画館から出たら、興奮のオンパレードである。

二人して、目をキラキラと輝かせながら語り合う。
どのシーンの誰が良かった。
このシーンのこの人がエモかった。
など、二人はマシンガントークをぶつけ合う。

これがヲタク同士の会話。
ヲタクにとって至極の時間である。

「あ、もうアニメイト着いた。」

「うわ、あっという間じゃん。あ、じゃあ私ＣＤコーナーにいるね。」

「了解。」

お互いの領域は決して邪魔しない。
理想の姉とはこの人の事を言うのだろう。二郎は確信する。
少女と出会えてよかった。
このタイミングで言うと感動が少ないが、それは二郎の本心だった。

一方少女は、ボカロ・歌い手のコーナーにいた。
普通のＣＤ屋さんで買うのがどこか照れ臭く、ボカロ系はアニメイトで買うことにしている少女はここぞとばかり新作を探った。

＿＿30分後

「お、買ってきたか。」

「いやぁ、待たせたな。」

「良いよ。んじゃ、ご飯行こうか。」

「おう！」

二人は少女のバイト先へと足を進める。
その間もヲタクトークは途切れることを知らず、二人は和気あいあいとしながら街を歩く。
その様子はさながら

＿カップル、若しくは本物の姉弟のようであった。


「あ、ここ！」

「へ〜＜ナポリ＞か。」

「あれ、乾ちゃん？？」

「あ、安西さん！」

「え、何彼氏？」

「違いますよ〜。弟のような存在の子です。」

「え〜そうなの？」

出てきたのは副店長の安西龍太。
少し気だるげで、下世話なお話が大好きな30歳である。
若者の色恋話は特に彼の好物である。

「どうもっす。山田二郎デス。」

彼氏と間違われ、照れてしまった二郎。耳が赤い。
そんな彼を見て少女のイタズラ心に火がつく。

「でも、今日は＜デート＞なんですよ！」

そう言って少女は二郎の腕に抱き着く。
安西はそうなのか〜と嬉しそうな反応をして、二人を席に案内する。

「…くっそ。」

少女にしてやられてばっかりの二郎は顔が真っ赤になりながら席に着くのだった。

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