. ページ5
セーラー服でしゃがみこむ私に、何でそんな格好でと問う芽衣子ちゃんがいました。今ここで私の死を悟られては何の意味もありませんから、それに答えることはできないのです。
「みててね。」
抜けきらない敬語が嫌で仕方なかったのです。家に縛られるような感覚が、いつも私を襲っていましたから。
疑問を抱いた顔でうんと返事をした芽衣子ちゃん。
私の死を見届けることについての返事ではないと分かっていても、結果そうなのですから、そう考えると、表情が緩むのも仕方がないと思います。
そう思いながら、立ち上がりました。
私の生との決別です。
レンズが血に塗れてはいけませんから、十分に距離を取って。爪先からてっぺんまで、私を余すことなく映すように。
開け放しのカーテンから漏れる月明かりに、ナイフは光を反射しました。
『さゆりッ──』
芽衣子ちゃんの焦るような声が聞こえた気がしました。
でも、芽衣子ちゃんがそんな感情を露にしたことはありませんから、きっと私の欲が生み出した幻聴に違いありません。
そんな声から逃げるように、私は自らの首の肉を掻っ切るのです。
あ、良く切れる。そんな事を考えられたのは血が出る前だけでした。
刃が私から離れた途端、私の体内から勢いよく鮮血が飛び出していくのです。抑圧から解き放たれたように、逃げるように。
痛い。痛いのですこれはダメ酷い辛い焼ける溶ける何を私は一体何をあ熱い痛いいたいい痛い痛い痛いああああいたいいたいいい──！！
今までのどの経験よりも辛く苦しいものでした。
一瞬手放しかけた意識も、芽衣子ちゃんの前では白目を剥けないという愛の力(今の時代、そう言うのは陳腐でしょうか)により取り戻すことが出来ただけであって、本当に、死の狭間にいるのです。
芽衣子ちゃんへの愛をと綺麗に笑うはずが、私が出来るのは虚無を作ることだけでした。
私の描いた今日この時は、こんな筈じゃないんですけれど、可笑しいな。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 5人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
与田 茜(プロフ) - マナさん» 文章ですか、今見返すとかなり荒削りな文章ですから、なんだか恥ずかしい気もしますが……ここは潔くお褒めの言葉を受け取らせていただきますね(笑)羨ましいとも面白いとも、言われるだけで天狗になってしまいそうです……！！閲覧にコメント、ありがとうございました！ (2019年7月29日 21時) (
レス) id: 35915b1fe0 (このIDを非表示/違反報告)
マナ - とても面白かったです！文章も上手だし、本当に羨ましいです笑 (2019年7月29日 14時) (レス) id: 6780f1cbe2 (このIDを非表示/違反報告)
与田 茜(プロフ) - バンビーさん» いやいやそんな、私には面白いの一言だけでも十分なのです……(確かにもっと沢山の人に見てもらいたい気もしますけれど、傲慢と言われそうなので心の中に秘めておくことにします)閲覧にコメント、ありがとうございました！ (2019年7月16日 23時) (レス) id: 35915b1fe0 (このIDを非表示/違反報告)
バンビー - もっと評価されるべき作品な気がします！とても面白かったです！ (2019年7月16日 22時) (レス) id: ff85299768 (このIDを非表示/違反報告)
与田 茜(プロフ) - ここ。さん» 語彙力たっぷりに褒めちぎって頂けて、感激の極みでごさいます！結ばれずに終了、だけでは小百合も可哀想ですので、それとなく幸せを醸し出したのがいい方向に転がってくれて良かったと一安心です(笑)次回作にも力が入ります！閲覧にコメント、ありがとうございました！ (2019年7月16日 14時) (レス) id: 35915b1fe0 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：与田 茜 | 作成日時：2019年7月4日 6時
