夢先のキンセンカ２ ars (ページ3)

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言わない、言えないページ3

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「とりあえずこれで大丈夫だろ」

濡れた服を脱がせて二宮の服を着せ、畳の上に敷いた布団に大野をようやく寝かせた松本がため息と共に呟いた。

二宮は放心したように眠っている大野の傍に座り込んでピクリともしない。

またため息をついた松本は、あまり物のない部屋を見回して電気ストーブを見つけて電源を入れた。その周りだけ、じんわりと熱が伝わって空気を温める。

「なあカズ、ちゃんと説明しろよ。
いきなり助けてって叫ぶから、強盗にでもあったかと思っただろ」

二宮の隣に座った松本が、二宮を覗き込んだ。

二宮とホームで別れた松本は、一度は他の奴に引っ張られるように電車に乗ったが、二宮が気になって「悪い、用事思い出した」と途中の駅で降りて乗り換えた。それから二宮の家の前で待っていたが、日が完全に暮れてもなかなか二宮が帰ってこなくてやきもきしてたらあの電話がかかってきた。

『潤君助けて！！』

二宮があんなに取り乱した声を、松本は聞いたことがなかった。

悲しくても怒っていてもいつもどこか冷めている二宮の、あんな冷静さを欠いた感情剥き出しの叫びに心臓が潰れそうになった。

どうした、何があった、今どこにいる？

何かあったんだって、必死で聞いても、自分を見失ったように二宮は『たすけて』と繰り返すばかりで松本の焦りは募った。

「そこから動くなよ！」と叫んで通話にしたまま、路地に飛び出すと、道の端に座り込んでいる二宮の背中を見つけて駆け寄った。周囲に変わった様子はなく、事故や事件に巻き込まれたのではないと分かってとりあえず安堵する。

何があった、と尋ねる前に二宮の腕の中で目を閉じている顔が目に入ってはっとした。

あの人だとすぐにわかった。

どこかで会ったことがある気がした、看板の落下から助けてくれた、あの人。

強くて危うい光を灯したその目を思い出して、不思議な感覚に襲われる。

どうしてあの人がここにいるのか、とか、二宮の知り合いだったのか、とか。

色んな疑問が浮かんできたが、完全に力の抜けている大野の様子を見て先に体が動いた。

二宮の反対側に回って大野の膝裏に腕をさし入れて横抱きにすると、放心している二宮に

『お前ん家運ぶぞ。ここじゃ体温奪われる』

そう声をかけると、二宮がやっと松本を瞳に捉えた。

弱り切ったその目に動揺しながらも、松本は二宮を急かしてなんとか大野を部屋に運び込んだ。