第百ニ話【一欠片の賭け】 ページ6
鏡花が離れたのを見て、私は周りの状況を確認しようとした。
しかし、何か違和感があった。何故なら、周りが静かすぎたからだ。先程まで黒服達の短機関銃の音が響いていたというのに......
私は植え込みの隙間から目の前の状況を見た。そして、その光景に言葉を失った。先程、黒服達が組合に向かって短機関銃を撃ち放っていたが、彼等は体から血を流し地面に倒れ伏せていた。加えて着物の女性、そして、探偵社の国木田・敦・賢治でさえピクリと体を動かさなかった。誰一人、戦える状態ではなかった。
「ふーあっけなかったね。じゃあ、終わったし早く帰ろ」と組合の誰かが云った。
「そうだね。確かに僕達の敵にすら無かった」
帽子の青年がその言葉に答えるように呟いた。
今の私には組合の異能者と渡り合うような力はない。出来る事とすれば、救援を呼ぶ事しか出来ない。救援を呼ぶためにも早く立ち去って欲しいと思っていると......
青年の一言で私は絶望に落とされた。
「でも、まだそこに一人いるよ」
その言葉に私は肩を震わせ身構えた。一体何故、位置がバレたんだ。直ぐにその場を離れようとしたが遅かった。
足に葡萄の蔓が巻き付いていて身動きができなかったのだ。葡萄の蔓は人知れず動き出し、私の体を持ち上げると植え込みの前に叩きつけた。思わず、痛みで呻いた。
「おー本当だ。僕じゃ気付かなかったよ。スタインベックもよく捕まえたね。で、どうするの?」
赤茶色の髪の青年が云った。
「この者達と同じように一思い殺してあげましょう。敵は減らしておいた方が後々行動しやすくなりますから」
牧師の男が答えた。
「それもそうだね。そう云えば、紅い着物を着た女の子もいなかったっけ? スタインベックどう?」
赤茶色の髪の青年は周りを見渡した。
「いや、 もういないみたいだ。先程の騒ぎで逃げたみたいだね」
スタインベックと呼ばれた青年は答えた。
「ふーん、じゃあその女の子も探す?」
組合が云っている紅い着物の女の子というのは鏡花の事だ。
「やめて、あの子には手を出させないわ......!」
私は必死の思いで叫んだ。
「ふーん、でもこの状況で僕達を止めるっていうのかい?」
確かに私の手と足には葡萄の蔓が巻き付かれている。この蔓を如何にかしなければ状況は変わらない。方法があってもイチかバチかだ。私は息を整えた。
そして、顔を上げ一言云った。
「こうするのは如何?」
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トキハル(プロフ) - 長らくお待たせしましたm(_ _)m 更新始めていきます。 (2020年3月4日 15時) (レス) id: a4508594ec (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:トキハル | 作成日時:2020年3月4日 14時