【文スト】夜明けの死神第六幕 (ページ34)

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第百三十話【幻覚の中にある現実】ページ34

「止めるんだ！敦君！良く見ろ！」

その声に敦の手の力が止まった。横へ視線を動かすと、息を切らせながら太宰が此方を見ていた。

「敦さん...... お願い...... 止めっ......」

ナオミが息も絶え絶えになりながら云った。漸く、敦が自分が何をしていたのか気づいた。そして私達の首から手を離した。

「ゲホッゲホッっ......」

私とナオミは激しく咳き込んだ。

「ち、違う......ぼ、僕は皆を守ろうと......僕はただ......！うわぁぁぁぁ......！」

敦の叫びが駅のホームに響き渡った。太宰はベンチの下に落ちていた久作の人形を見つけると、それを手に取った。

「異能力『人間失格』！」

異能力無効化が発動し、人形は削り炭のように消えていった。人形が消えている間も、あの奇声が木霊していた。

太宰が敦に目を向けると、敦の腕についていた紅い呪いの手形がスッ......と消えるのを見た。太宰はその様子を見て、安堵の息を吐いた。

「太宰さんのお友達、ずいぶん壊れやすいんだね」

久作が列車の入り口に寄り掛かりながら太宰を見ていた。その時の顔は楽しんでいたものが突如邪魔されたように、つまらなそうな顔をしていた。

「けどいいんだ。太宰さんを壊す楽しみが残っているもの☆」

Qー夢野久作ー能力名『ドグラ・マグラ』

「それはおめでとう」

太宰は怒気を含ませたような低い声で云った。

「僕を閉じ込めたお礼にいっぱい苦しめて壊してあげるね」

久作は太宰の圧に怯む事なく、代わりに満面の笑顔を向けた。

「善く憶えているよ。君ひとり封印する為に大勢死んだ。けど次は封印などしない」

太宰が久作の前へと足を進めた。

「心臓を刳り貫く」

太宰は冷たい目を久作に向けていた。対して、久作もその目を逸らす事なく、無邪気な目で太宰を見ていた。二人の間に周りの空気を冷やすような沈黙が流れ続けた。

「ふふふ、また、遊ぼうね太宰さん☆」

バタンッと音を立てて列車の扉は閉じられた。安全を確認できた列車は徐々に加速していくと、そのまま走り去っていった────

列車が姿が見えなくなった後も、私達は何も言えず、ただ顔を俯かせていた。誰の所為でもない事は分かっていた。しかし、相手を庇護(ひご)する言葉でさえ何も口に出せなかった。

私はまだおぼつかない足取りでその場を立ち上がると、春野とナオミの側へと歩いた。