第百二十四話【危急存亡の秋】 ページ28
「
福沢が中原の言葉を聞き、怒りを露わにした。
「直ぐに避難すりゃ、間に合う。その上組合はお宅等が動く事を知らねぇ。楽勝だ」
「つまり、アンタらは事務員の居場所を探り出して組合に密告し、さらにそれを探偵社に密告。自分達は汗ひとつかかずに二つの敵を穴に落とした、って訳かい」
与謝野は静かに怒気を含ませながら云った。
「穴だと判っていても探偵社は落ちずにはいられねえ。首領の言葉だ」
マフィアは探偵社が必ず事務員を助けに向かうと知って、今回の策に及んだ。もう奇襲どころではない。正面からやらなければ、誰も守れなくなる。
私は無意識に拳に力が入るような気がした。
兎に角、直ぐにでも助けに向かわなければ、春野とナオミが危ない。私は体の痛みも忘れ、立ち上がった。そして、それに気がついた与謝野と目が合った。
「行きな! A!外で国木田と谷崎と合流しな! 此処は妾達がやるから」
与謝野が私に叫んだ。
「でも!」
「いいから!」
「......ッ......はい!」
私は外に向かって走り出した。
本当は残らなければいけない状況だった。いや、私があのまま残っていても何も出来る事はないのかもしれない。しかし、それ以上にも非戦闘員である春野とナオミに危機が迫っているのだ。最悪の状況など起こって良いはずがない。
私は廃路線の外へ通じる道を走り続け、外へ出た。外に出ると、直ぐ側に車が止まっていた。
「秋田! 乗れ!」
運転席から国木田が叫んだ。助手席には谷崎の姿もあった。
「はい!」
私は直ぐさま、後部座席の扉を開けると車に飛び乗った。飛び乗った瞬間、車が急発進をした。
「秋田、知っていると思うが、組合と交戦する」
走り続けた事で上がった息を落ち着かせていると、国木田が口を開いた。バックミラーで国木田の視線が合った。その目は為すべき事を自覚している目だった。例えそれが危険な相手であってもだ。
「俺と谷崎が組合の相手をしているうちに、お前は春野とナオミを頼む」
「でもお二人だけでは......」
私は椅子から身を乗り出した。それに気がついた谷崎が振り返った。
「いいんですAさん。そのかわりナオミを守ってください」
二人の覚悟は決まっていた。決まっていないのは私だけ。私は真っ直ぐ二人を見た。
「わかりました。お二人もご武運を」
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トキハル(プロフ) - 長らくお待たせしましたm(_ _)m 更新始めていきます。 (2020年3月4日 15時) (レス) id: a4508594ec (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:トキハル | 作成日時:2020年3月4日 14時