15 ページ16
菓子に食いついたAの嬉しそうな表情に、心の奥が一気に温かくなる。
自分はなんて単純なんだと、少し残念にさえ思えたが、可愛い顔が見れたのでもう何でもよかった。
だけど俺が座ると、なぜかAに目を逸らされた。
こいつは基本的に、いつも人の目を見て話す。社交的で、明るい印象だ。
いつもと違い、うつ向いた彼女に違和感を覚える。
どこか具合でも悪いのか？
心配になり顔を覗き込むが、何だか初めて見る表情でよくわからなかった。
そして扉でノックを鳴らした男によって、先程の食堂で耳にした会話を、俺は再び思い出すことになる。
・
『さてはその顔、勝ったんだ？』
「あぁ、Aの分もバッチリチェイスしてきたよ」
嬉しそうに占い師にはにかむ彼女。
あぁ、こいつの前だとAは、こんな顔もするのか。
「君も来ていたんだな、サベダー。Aはこう見えて独りが嫌いだから、よかったよ」
『ちょっとイライ？一言余計だっての！』
息ピッタリな二人を見て、心がズキリと痛む。
小さい男だよ、俺は。
Aが自分の彼女でもないのに、すぐに嫉妬してしまうから。
そんな卑屈を心の中に留めながら、俺は口を開く。
「確かにな。コイツ、俺が部屋を出ようとしたら泣きついてきたんだ」
『ばっ……ナワーブ！！』
「はは、Aもなかなかやるなぁ」
穏和に笑うクラークと対称的に、鋭い目で俺を見るA。
そんなに押し倒しされたくだりを言われたくないのか。
その様子を見て、さらに言いたくなった。
きっとさすがの占い師も、Aを押し倒したことはねえだろ。
そう思うとなぜかはわからないが、物凄く言いたい気持ちになった。
「俺を女友達と同等に見てるのか知らねえけどさ、服の裾掴んで止めるから俺はつい……」
『ナワーブ！！！』
「……むぉい、ふあけんな」
急に口一杯にクッキーを詰め込まれた。
これじゃあまともに話せないじゃねえか。
渋々言うことを断念して、クッキーを噛み砕く事に専念する。
ちらりと見たAの横顔は、どこか火照っているように見えた気がした。
・
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 295人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「第五人格」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ノア - いい話でした!!!でも完結しないで欲しかった!!!なんか寂しい!!! (2021年9月16日 18時) (
レス) id: d3532bbf31 (このIDを非表示/違反報告)
ソーダー - 完結おめでとう！！ナワーブかっこよかったなーこれからも頑張れ (2020年1月23日 18時) (レス) id: 54c7bc329a (このIDを非表示/違反報告)
主人公(プロフ) - 完結おめでとうございます！ナワーブくんと夢主ちゃんの葛藤……二人とも幸せになって良かったです！イライくんは…ちょっと悲しいけど…とても素敵なお話でした！ (2019年8月14日 8時) (レス) id: b1a69e75f8 (このIDを非表示/違反報告)
setuna7014(プロフ) - 完結おめでとうございます、とても素敵な作品でした。次のお話も期待しております (2019年8月14日 3時) (レス) id: 9c6758aed7 (このIDを非表示/違反報告)
ぽぴら(プロフ) - setuna7014さん» 率直なコメントとっても嬉しいです、ありがとうございます！更新頑張ります…！ (2019年8月3日 23時) (レス) id: 3f5b5addce (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
