露草のかほり 【フリーアートシリーズ】

１　文月 ページ1

小学生の頃、しょうもないことをした。勉強嫌いだった私は授業中は突っ伏していたり、いびき寸前の所まで瞼を閉じていたりした。そして、勉強をしなさいと怒ったママが渡した鉛筆を授業中に芯なしにしてやった。私は偉業を成し遂げた。



　覗き込んでみると中が空洞になっており、少々ボコボコしている。大学生になった今でもその鉛筆はペンケースの中には必須で、暇になると覗き込んでしまうのだ。



　１人暮らしには丁度良いくらいの、安くて狭いアパートの一室。小学生の頃に使っていた小さな勉強机を実家からこの神奈川にまで運び、そこで大学のテキストを開けたり漫画の原稿用紙を広げたりしている。今は漫画の方だ。



　出版社の方からは小さい存在であるが私という人物を把握してくれ、原稿を持って行くと少々の時間は削って見てくれる。勿論、まだまだ鋭い批評だってある。



　机から消しカスが２，３個と落ちて行った。私はそれを横目で見届け、原稿用紙に取り掛かり始めた。



　小さい勉強机は大人の私には不便で、足を組もうとすると太ももに異物が当たり、台の位置が低いので細かい文字なんかは絶対に読めない。だけれど、年季の入った私の勉強机はどうしても捨てられなかった。



　机の上の、アナログ携帯が鳴る。ピーチ色の光沢のある背中が気に入っている。高校生の頃はデコりとか言ってシールを貼っていて、その跡が汚らしく残っていた。



　携帯の背中の細長い画面に表示されたのは、「瑛大」の文字だった。

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