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それから俺は結局店長にも、知念さんにもそのことを聞くことが出来ず悶々とした気持ちで日々を過ごしていた。
確かに、知念さんは優秀なスーパーバイザーというのは聞いたことがある。かつて「業務スーパーマン」という二つ名がついていたことも。
そんな知念さんだ。経営を建て直したココよりも二号店に行った方がいいというのも納得はできる。
……けど、理屈でそうわかっていても、そう簡単に割り切ってくれないのが俺の恋心である。
「はぁ……」
「どーしたの? おにーちゃん」
ため息をついていたら、なりくんに心配されてしまった。
というか、なりくんが来ていたことにすら気が付かなかったのはなかなか重症な気がする。接客業従事者としての意識が足りないな、と自分で自分を叱責した。
「いや……それがさ、」
そう言って、このコトは店長や知念さんから言った方がいいよな、と思い留まる。
というか俺も何も聞かされてないし。
否。
なりくんも知念さんと仲がいいからやっぱり悲しむだろう。
俺は、そんななりくんにこの事実を言うのが怖かったのだ。
……俺すらも受け入れられていないから。
「なんでもないよ」
そう言うと、なりくんは首を傾げながらも頷いてくれた。
.
知念さんが、二号店に行くと聞いてから早一週間。
あれから知念さんに会えてすらいなかった。
二号店、オープンいつだったっけな。
早くて三ヶ月後とかかな。
じゃあ早くて三ヶ月後には知念さんにはもう……。
寂しくて、何も言えない何も出来ない自分が情けなくて。
ついに知念さんの幻覚まで見えてしまった。
「中島さん!!」
「……え、あ、知念さん!?」
……否、知念さん本人が目の前にいた。
「どうしたんですか? そんなにボーっとして」
「あっ……いえ、なんにも」
依然として不思議がる知念さん。まぁ当然なのだが。
でも、こうやって2人で話せる口実はもうなくなるんだなぁ……なんて思うと少し、切なくて。
「マカロンたこ焼き、1つお願いします。中島さんのマカロンたこ焼き食べたくて……」
「あっ、ハイただいま……」
……しどろもどろな返事をして、マカロンたこ焼きを作るも、食べる機会もなくなるから今のうちにということなのかなんてネガティブな方に引っ張られてしまう。
マカロンたこ焼きを美味しそうに食べる知念さん。
そんな彼を見て、俺はつい口走ってしまった。
「知念さん……好きです」
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作者名:日波 輪廻 | 作成日時:2022年12月14日 22時