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_____…時は過ぎ、2年生の秋。
青道高校野球部は、秋の大会で優勝を修め、甲子園への切符を手に入れた。私はスタンドから、吹奏楽部員と一緒にその勇姿を讃えていた。…目の前は涙で滲んでいた。
夏も過ぎた少しの肌寒さは、歓喜の熱気で吹き飛ばされていた。
(おめでとう…ほんとにおめでとう、白州君)
春から白州君のヒッティングマーチ、必殺仕事人の冒頭のソロを吹き続けてから、たくさんの姿を目にしてきた。
夏には決勝での苦い敗戦を。その後、新チームでの様々なぶつかり合いを乗り越えてきたこと。秋の大会でも、苦しい展開でもみんなで全力で乗り越えてきたこと。
すぐ近くでは見られないけど、少し離れたところからその努力を見守ってきた。陰ながら応援してきた。
…そんな彼が、彼らが、ついに念願の甲子園への切符を手に入れたのだ。応援の挨拶に来たメンバー達の中、たった1人、白州君とだけ目が合ったような気がした。
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「A」
「白州君！！本当におめでとう！」
「ありがとう。…悪いな、遅くに」
「ううん、全然」
少し肌寒い空気に包まれる中、私たちは人気のない河川敷にいた。球場のあの熱気がいまだに体を火照らせ、少し冷たい風が心地よく熱を冷やしてくれていた。
私は今、あの熱い試合のど真ん中で活躍した彼に、どういう訳か呼び出されたのである。2人以外誰もいない河川敷には、綺麗に鳴く虫の声だけが響いていた。
「…ほんとに、お疲れ様。」
「Aもな」
いつもと少し違った雰囲気に、思わず息を飲む。…こうやって夜に会うのも、そういえば初めてかもしれない。あまり顔がはっきりと見えないのも、いつもとの違い少し瞳を揺らしてしまっていた。
「…A、」
少しの沈黙を破り、芯の通った声で私の名を呼ばれた。改まって呼ばれると少し気恥ずかしく、赤くなりかけた顔も辺りが暗いお陰で誤魔化せている。
「…今まで、何度もAのトランペットの音を聞くたびに勇気づけられてた。奮い立たされた。…本当にありがとう。」
「白州君…」
スタンドからだとすごく遠いし、届くかもわからないけど、ありったけの思いを込めていつも音を届けていた。…ちゃんと伝わっていたんだ。
「…やっと、甲子園に行けるな。…一緒に。」
「…うん！」
「甲子園でも応援、頼むな」
やわらかく微笑んだ彼の顔が、まるで私だけが見られる特権のようで心が満たされていた。
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作者名：やまなな | 作成日時：2024年2月29日 1時
