球児達の恋模様【短編集】 (ページ2)

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　"おい、あぶな…"と焦りの滲んだ声が耳に入ると同時に、手首をぐいっと引かれる感覚がした。
　ゆっくりと目を開ければ、私を抱える形で下敷きになる倉持君がいた。

　「…え、」

　この状況になったのは、どう考えても私を落ちてくるものから守ってくれたからである。…そのまで考えて、サーッと血の気が引いていくのがわかった。

　「……大丈夫か？」

　「ごめんなさい！！」

　固まる私に怪訝に尋ねる倉持君をよそに、私は必死に問いかけた。

　「ごめんなさい、倉持君、野球部の主力なのに…大切な体なのに…！！大丈夫？！怪我してない？大事な時期だよね、なのに、ごめんね…」

　きっと私はすごい剣幕で捲し立てていたことだろう。…だが仕方がない。憧れの人に私のせいで怪我をさせてしまったかもしれないから
　…と、そこまでいって、怪我の心配をしておきながらずっと倉持君の上に乗っていたことを思い出した。

　「あ、ごめんなさい、乗ったままなのに怪我の心配とか…」

　「…は、」

　少しの気恥ずかしさと申し訳なさを隠しながらそそくさと離れると、"ヒャハ、"なんて声が。

　「焦りすぎて本末転倒じゃねぇか！」

　おかしそうに少し笑ってひょこっと立ち上がる彼を見て唖然としてしまった。…今、私に向かって笑ったのだ。

　(そんなふうに笑うんだ…やばい、かわいい)

　普段は誰かに向けている笑顔を、間近で、さらに自分に向けたものを見てしまい、きゅーっと胸が締め付けられる。

　(…だめ、だめだ、見ちゃいけない)
　

　憧れといっていたものが違うものに変化していきそうなのを察知し、必死に引き留める。…だって彼は、強豪校の主力であり、副キャプテンだ。私とは生きている世界が違うんだから。

　「…そっか、お前も運動部だっけか、バド部だっけ」

　「え、なんで知ってるの？」

　「クラスメイトだろうが。それくらい知ってる。…だからそんなに怪我の心配したのかって納得した」

　ニシッと笑う彼に、もう留めようもなく、心臓がトクンと波打った。
　…まさか、私の部活を知ってるなんて。そして、こんなに優しい顔をする人だったなんて。

　「…うん。私も、大事な試合に怪我で出られない辛さはわかるから。…責任ある立場ならなおさらね。」

　「そーだな。俺もお前も無事でよかった」

　「本当にありがとう。…夏大会、応援してる。」

　「おう。お前もな」

_____憧れの人と距離が縮まるのは、あと少し先のお話。