コイノウタ弐 (ページ16)

今日:4 hit、昨日:1 hit、合計:22,480 hit

竜田の川の錦なりけりページ16

嵐吹く三室の山のもみぢ葉は続き

予想と違うお願いだった。
コスプレとかエグめのプレイを要求されるかと、、

『急にどうしたの？』

「考えたんです。2人の時くらい仕事のこと忘れられたら、もっとAさんも気が休まるんちゃうかな、って」

それに恋人やのに芸名で呼ばれるの寂しいですし、と抱きしめられて顔は見えないけど、真剣さが声のトーンで伝わってくる。

『ま、さき』

慣れないし恥ずかしい...けど応えようと名前を呼ぶと、身体が離れて目が合う。

「...なんでそんな可愛いんすか、、」

そう笑ってまた抱きしめられる。

「俺も、呼び捨てで呼んでいいですか？あと、Aさんが嫌じゃなければ敬語もやめたいです。勿論2人の時だけ」

『、、うん。嫌じゃないよ、そうしよう？』

「良かった、ありがとうございます」

リリーの考えてくれた優しいお願いが嬉しかった。

「A！今日何時にする？」

『、、リリー、ここ、楽屋』

お互い呼び捨てで呼ぶ事も敬語なしの会話も慣れてきた。
1週間ぶりに顔を見るや否や嬉しそうに私を呼ぶ将企、

一瞬時が止まり、周りにいた芸人たちがざわつき始めた。

「え！」

「リリーさんAさんと？！」

「嘘や！」

「Aさん...」

「2人とも真っ赤(笑)」

騒然とする中、リリーに手を掴まれて大楽屋の外に連れて行かれる。

「ごめんなさい」

『気にしないで、恥ずかしかったけど...』

「テレビ通話も出来てへんかったからAの顔見たら嬉しなって、、」

空いてた楽屋に入るとシュンと肩を落とす将企。

意外だった。
付き合う前も今までも楽屋ではそんな素振りを一切見せてこなかった。

『ちょっと嬉しかった、かな』

「え？」

『2人の時以外リリーだったから、寂しかった...っていうか、その、、』

恥ずかしくなって下を向く。

「じゃあ楽屋でもいつもみたいにしてええ？」

『ん』

「楽屋でもイチャついてええ？」

『え、さすがにそれはダメ』

「ふは、せんから大丈夫。多分」

話し終えて大楽屋に戻って行くと芸人たちの視線が集まる。

「いつから付き合ってるんすか！」

「Aさんのこと狙ってたのに！」

「リリーさん狡いです！」

なんとかしなきゃと思うものの頭が真っ白で対処法が思い浮かばずにいると、将企が私の前に立って

「Aを困らせたら罰な」

と低めの声で発し一同から「はい！」と揃った返事が来て失笑する。

「これで堂々と話せる」

振り返った将企がそう言って微笑んだ。