コイノウタ (ページ37)

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あらざらむこの世のほかの思ひ出にページ37

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俺の右隣を歩くのが当たり前になったAは

「ねぇ、似顔絵描いてよ」

と言ったそばから目に涙を溜めとる。

俺の部屋にあがると

「もうこの部屋ともお別れだね」

ぼそっと呟いて、机に置いてあるパレットと筆を手にとった。

「描いて？」

白くて柔らかい手からパレットと筆を受け取り

「じゃぁそこ、こっち向きで座って」

座る場所と向きを指定して、スケッチブックを開く。

鉛筆でAの横顔を下書きする、サラサラという音だけが部屋に響く。

自慢だという長い睫毛も

俺を捉えて離さないキラキラした目も

俺を褒めたり好きだと紡いだ唇も

もう見れんのやと思ったら泣きそうになったけど、必死に堪えて俺なりの笑顔を作る。

「Aの横顔、めっちゃ好き」

「ぅ…っ、、」

ダムが決壊したかのように溢れる涙を、ティッシュで優しく拭くことしか出来んのが情け無い。

俺がとじたパレットを泣きながら開いて、Aの唇を塗った赤い絵の具を筆にとった。

いつまでも大好きだよ

パレットの白い部分にそう書いて、俺を見つめてぐちゃぐちゃの顔で笑った。

「俺も、」

ギュッと強く抱きしめて耳元で、好きだと囁く。

Aの綺麗な横顔を

怒って頬を膨らました顔を

照れて赤く染まった顔を

泣き顔を

頬を伝った涙を

優しい声を

やわらかい手を

Aと過ごした

愛しくて尊いふたりの時間を

パレットに絵具と最後のラブレターとともに

そっと閉じ込める。

「バイバイ」

まだまだしまいきれない想いを胸に抱いて、下書きで使った鉛筆を握りしめた裕美香を見送った。

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パレット / 嵐