イベリス【ymin】 (ページ37)

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「おはよ。珍しいな、寝坊？」

前の席の薮が自分の着席に気づいて振り返る。

「…おはよ。うん、そんなとこ。昨日記念日で寝るの遅くなっちゃって。」

少し言葉に詰まったが、なるべく普段通りの声色で返事をした。

ポーカーフェイスは得意な方。

長年一緒にいるこの男には取り繕ったとてバレてしまうのであろうが、あまり詮索はしないところが薮のいいところだ。

一限目さえ乗り切ってしまえば帰れる。

テストを受けずに0点よりは、10点でも20点でも点を取った方がマシだよね…。

テストは回っていない頭で解いたにしてはできている方だろう。

授業終了のチャイムと同時に席を立ち、教室を出る。

「おい、いの…」

途中で薮が話かけようとしてくれた気がした。

申し訳ないけれど、その声掛けに返答する余裕はない。

いつもより数倍も長く感じる廊下を進み、目の前にはやっと保健室があって。

幾分かほっとした気持ちになりながらも戸を開けると目の前には先日出会ったばかりの茶髪の派手イケメンこと、たかぎ。

「ごめんね、今先生会議中でいなくて。一応保健委員の俺が任されているんだけど、…大丈夫？」

体調悪い？と眉を八の字にして心配そうに声をかけてくれたたかぎ。

まるで小さい子をあやす様な声色に少し笑ってしまいそうになった。

相変わらずチャラい見た目とは違って優しい。

俺はやっとのことで口を開く。

「…ごめん、体調、限界。」

「ええ、大丈夫？横になろうか。」

たかぎがベッドを指さし答える。

「ちょっと、ベッド借りる…」

自分の限界を悟りながら、ゆっくりとベッドへの1歩を踏み出した瞬間、俺の視界はフェードアウトした。