VS.研究開発部【妄想営業部】 (ページ8)

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「ユウキ、お客様か？」

開いたドアの向こうから、駒田さんが現れた。

「あっ、ワタルさん！お疲れ様です」

榊原さんの表情がパッと明るくなり、声がワントーン上がった。
知ってはいるものの、改めてその様子を近くで見ると、少し驚く。

「ん？君は...確か、妄想営業部のインターンの子か」

駒田さんはそう言って、こちらに歩いてきた。

榊原さんとは対照的に、男らしくガッシリとした体格で、背も高い。容姿からも話し方からも、全体的に圧を感じて、駒田さんに会うと私はとても緊張してしまう。

「はい。お疲れ様です」

「グーテンモルゲン」

見事なまでに流暢な発音だった。駒田さんはドイツ出身の帰国子女だそうで、この挨拶が癖らしい。

「どうした、経理部に用事か？妄想営業部での仕事が退屈で泣きつきにきたのなら、うちで見てやっても構わないぞ」

高圧的でありながら、実は私のことを気にかけてくれているのが分かった。飴と鞭の使い分けが上手い。榊原さんが心酔してしまうのも分かる気がする。

うまく言葉を返すことが出来ず、私ははにかんだ。

「いえ、伊東さんから、駒田さんに渡して欲しいと預かっているものがありまして」

私は手に持っていた茶封筒を駒田さんに渡した。

「前回の出張の際の、領収書だそうです。経費で落として欲しいと」

「ほう」

駒田さんは茶封筒の中身を確認し、にやりと笑った。

「この私に直接渡してくるとは、随分度胸があるじゃないか。隅から隅まできっちり審査してやろう。ユウキ、俺のデスクに置いておいてくれ。それから、出かける準備を」

「はい！」

駒田さんから茶封筒を受け取った榊原さんが、パタパタと駆けていった。駒田さんに何かを頼まれることが、心から嬉しそうに見える。

そこまで尊敬できる上司の下で働けるなんて、さぞかし毎日充実してるだろう。少しだけ憧れる。

「まだ、何か用か？」

榊原さんをぼーっと見ていた私に、駒田さんが言った。私はハッとして、急いで首を振った。

「あっ、いえ、大丈夫です。お忙しいところをありがとうございました」

「まぁ、今日は本当に忙しいからな」

「お出かけされるんですか？」

「ああ。といっても社内だが。これから研究開発部に乗り込む」