VS.研究開発部【妄想営業部】 (ページ3)

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イケボ商事という、日本有数の総合商社がある。

大量の部署と社員を抱える巨大な会社だが、その中でも社長直轄の花形部署として新設されたのが妄想営業部だ。

もちろんただの営業部ではない。新時代の営業に必要とされる能力、『妄想力』を備えた営業を行うのである。所属社員たちは社長直々の厳正なる適正テストによって選抜された、エリート中のエリートだ。
容姿振る舞い共に美麗な伊東ケントさんは入社以来営業成績トップの座を守り続けているし、穏やかで理知的な西山コータローさんはIQ170とも噂されている。

そんなエリート部署に、今期唯一のインターン生として私は受け入れられた。ちなみに、理由はさっぱり分からない。

とにもかくにも、選ばれたからには頑張るしかないと、私はこの一週間無我夢中で取り組んでいた。

妄想営業部は現在伊東さんと西山さん、吉田部長の3人しか所属しておらず、しかし伊東さん西山さんが凄まじい勢いで新規契約を取ってくるので、仕事量はかなり膨大になる。私はひたすら慣れないパソコンに向き合い、その膨大な量のデータと資料を整理し続けていた。

何を営業するのかというと、もちろん自社の製品だが、妄想営業部が営業するからには『妄想力』が必要となる製品を担当する。

しかし、営業を行う前に、まず社員自らが製品を試すのが妄想営業部の慣例らしい。そこで、研究開発部から上がった製品を実際に試してみるミーティングが、定期的に開催されているわけである。

改めて、テーブルの上を眺める。

西山さんがテーブルの端に避けたり段ボール箱に片付けたりしているのは、かけると子供みたいになってしまう『ショタグラス』、飲むと語尾が変わってしまう『ゴビスク』、着けると飼い猫になってしまう『カチューニャ』などなど......見た目も性能も様々な製品達だ。

この量の製品を実際に試すのだから、それは当たり前のように疲れる。

ちなみに『ショタグラス』に関しては、初めてミーティングに参加させて頂いた時に、試しに着けさせて頂いたことがある。
見事なまでに精神が幼女に退化した私は、吉田部長に一目惚れ、抱っこをひたすらせがむという思い返すだけで背筋が凍る、恐ろしい失態をしでかした。

おそらく、西山さんはそれを思い出して、私が新製品を手に取らないようにしてくれたんだろう。私自身、その黒歴史を思えば、自然と片付けを手伝おうという気も消え失せる。大人しく、私は西山さんを見守っていた。