VS.研究開発部【妄想営業部】 (ページ17)

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「君たちの都合で、君たちが試作品を他の人間に回すんだ。なぜ私がリスク管理を考えなければならない？」

シンイチロー・神尾は当然のように言った。

一方、伊東ケントと西山コータローはすっかり呆気に取られていた。

当たり前だ。試作品の被験もそれに関わるリスク管理も、考えるまでもなく研究開発部の仕事である。
そもそも、これまでの試作品の被験だって『協力してきた』のだ。

なぜ、妄想営業部がその業務を担わなければならない？

これが仕事中でなければ、「あまりにも勝手じゃないか」とわめきたい気分だった。

しかし、二人には分かってしまう。

シンイチロー・神尾には、いくら説得を重ねても話が通じないと。

そういう種類の人間がいるのだ。

自分の中で筋が通っていて、悲しいことに端から見てもある程度筋が通っていて、しかし自分以外のどこかで不利益が起こっている。

そしてその不利益に対しては心から興味がない。自分に不利益がない上に筋が通っているのだから、解決する必要が無いのだ。おそらく問題視すらしていない。

「あとは助手のシューゴと相談してくれ。試作品を届けるのも回収するのもあいつの仕事だ。...もういいか？」

シンイチロー・神尾が言った。一刻も早く話を終えたいようだった。

「...一つ、お聞きしてもよろしいですか？」

西山コータローが口を開いた。

「なんだ？」

シンイチロー神尾の声は、相変わらず抑揚がなく、そして低い。感情が読めない代わりに、怒りなども感じられない。
かなり迷惑そうではあるが、勝手に話を切り上げて研究室に戻ることはしていない。

意外と話を聞いてくれるんだな、と西山コータローは思った。
人と関わりたくない、というよりは、彼はそもそも人と関わることに興味がないタイプだ。おそらく、自分の価値観の比重が高すぎて、人と話していても感覚が通じることが少ないのだろう。

...営業先の顧客だとしたら、もっとも厄介なタイプだ。

「今まで、なぜ全ての試作品が妄想営業部に送られてきていたのでしょうか？量としても多いですし、他部署にも回した方が回収までの期間も早まります。何より多様なデータが集まると思うのですが...」

それが、一番の謎だった。

妄想営業部のみに、押し付けられていると言っても過言ではない量の試作品がやってくる。何か理由があると思っていた。

だからこそ、文句を言うことに躊躇いを感じていたのだ。